
さまざまなツールの普及と発展、プラットフォームの拡大により、いまやゲーム市場は企業のみならず、個人開発者にも開かれています。彼らが生み出すインディーゲーム市場は年々拡大し、国内インディーゲーム市場も活況を迎えています。
昨今の国内インディーゲーム市場における大ヒット作の一つが、ゲーム開発チーム・墓場文庫が2025年2月にリリースした『都市伝説解体センター』です。ミステリーアドベンチャーの本作は、Nintendo Switch™、PlayStation® 5、Steam®版を展開し、発売3ヶ月で累計30万本を販売。また、雑誌『りぼん』での漫画版連載、JUMP j BOOKSや集英社みらい文庫でのノベライズも決定するなど、幅広いプレイヤーから支持を集めています。
本記事では、墓場文庫でメインエンジニアを務めるMOCHIKIN氏にインタビューを実施。同氏がゲーム開発に挑むことになった経緯から、墓場文庫としてUnityを活用することになった経緯、そして、インディーゲーム開発に付きものの「エターナル現象」を回避するための方法についてうかがいました。
かつては、たびたびエターナル現象に直面していたというMOCHIKIN氏は、「制限した中で遊ぶ」という掟を自らに課すことによって、それを回避。「エターナル現象に陥らない(=エターならない)」開発を実現するための制限」として採用したのが、Unity Asset Store(以下、Asset Store)で販売されているゲームツールキット「Adventure Creator」でした。
MOCHIKIN氏は、Unity、そしてAdventure Creatorを活用して、いかに「エターならない」開発を実現したのでしょうか。その開発哲学と、Unity活用術に迫ります。
「下心」から参入を決めた、インディーゲーム市場
MOCHIKIN氏はそのキャリアをゲーム開発からスタートさせたわけではありません。新卒でシステム開発会社に入社後、Web開発業へと転身。後に起業し、Web業界で数多くのプロジェクトを経験します。
iPhoneの普及に伴って、スマートフォンアプリ開発にシフトしたMOCHIKIN氏は、各種ツールや、Objective-CやCocos2d-xなどを用いたカジュアルアプリの開発に従事。そして2016年、共に活動していたメンバーの一人が出展していたことから訪れた、日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit」が大きな転機となります。
BitSummitの会場を訪れたMOCHIKIN氏は、自分たちと同世代、あるいはさらに若い世代の開発者たちが活躍している姿を目の当たりにします。そこで感じたのは「自分にもできるのではないか」という思いでした。共にBitSummitを訪れていた、グラフィッカー/デザイナーのハフハフ・おでーん氏と共に、「かなり軽いノリで、半ば下心から」ゲーム開発にチャレンジすることを決意。そうしてMOCHIKIN氏とハフハフ・おでーん氏は、ゲーム開発ユニット「スカシウマラボ」(後の墓場文庫)を結成します。
ゲーム開発へのチャレンジを決めた時点で、「本格的には使用していなかったものの、技術検証レベルでUnityを触っていたこともあり、Unityを活用しようと思った」とMOCHIKIN氏。こうして、MOCHIKIN氏のUnityを用いたゲーム開発への挑戦が始まります。
「エターナル現象」の原因は、「完成形のイメージの欠如」

ゲーム開発は順調なスタートを切り、 A 5th Of BitSummit、BitSummit Volume 6と、2年連続で『サムライ地獄』シリーズを出展したものの、開発は頓挫することになります。さまざまな理由からゲーム制作が永遠に完成しないまま放棄されてしまう「エターナル現象」が発生してしまったのです。
「ゲーム開発にチャレンジする以前、スマートフォンアプリを開発しているときにもエターナル現象を経験した」と語るMOCHIKIN氏は、この現象が発生する原因を「完成形のイメージの欠如」にあるとします。
「たとえば、イラストレーターが空想上のものを描こうとする際、頭の中に明確な完成図がなければ、筆をどこから入れ、どういう順番で書き進めばいいかわからなくなってしまうと思うんです。それと同じように、アプリでもゲームでも、完成形を具体的にイメージできていないと、どのようなタスクから手をつけるべきかがわからなくなってしまい、その結果としてエターなってしまうことが多かった」とMOCHIKIN氏は当時を振り返ります。
さらにMOCHIKIN氏は、「完成形のイメージが欠如していると、『足し算』が終わらなくなってしまう」と続けます。「特に、Unityのように豊富な機能を備えたツールを用いていると、あまり苦労することなく、ゲームにさまざまな機能を追加できる。そうして『足し算』を繰り返しているうちに、どこを目指しているのかがわからなくなってしまい、ゲームとして破綻していくことになる」。

実際、『サムライ地獄』シリーズも、当時流行していたローグライクゲーム(※1980年に発売されたダンジョン探索RPG『Rogue』のような要素を持つゲーム)、あるいはローグライトゲーム(『Rogue』が持つ要素を一部、あるいは簡略化して、ライトに実装したゲーム)を目指しており、その実現のためにさまざまな機能を追加していったものの、やがて取り留めがつかなくなり、結果としてエターナル現象が発生。シリーズ続編の開発がストップする事態になりました。
この経験から、MOCHIKIN氏は「開発に着手する前に、『完成形』をイメージし尽くし、そこから逆算をし、機能の要/不要を判断しなければならない」という教訓を得ることになったと言います。
開発方針は、「制限した中で遊ぶ」

そして、MOCHIKIN氏はエターナル現象を打破するために、自らに「制限した中で遊ぶ」という掟を課します。
この掟を生み出すきっかけとなったのは、Unity Asset Storeで見つけた「Adventure Creator」との出会いです。このアセットはポイント&クリック型のアドベンチャーゲームや、3Dの探索型アドベンチャーゲームを作成するためのもの。「もともとAsset Storeが大好きで、目的もなく覗くことが多い」というMOCHIKIN氏は、たまたまAdventure Creatorを発見したのだそう。
「Adventure Creatorを使えば、アドベンチャー以外のジャンルのゲームもつくれるのではないか」と感じたMOCHIKIN氏は、ゲーム開発にこのアセットを導入することを決断。その判断の根底にあるのは、「どのようなゲームも、開発者側が設定したフラグをプレイヤーが取得することで、ゲーム内で交わされる会話が変化したり、次のシーンへと遷移するシステムである」という考え方です。MOCHIKIN氏は、Adventure Creatorさえ活用すれば、この「フラグの取得と更新」というゲームの基本構造を網羅的に実装できると考え、導入を決めたのです。
そして、MOCHIKIN氏はエターナル現象を防ぐための開発上の制約として、「Adventure Creatorの機能のみを活用する」という方針を打ち出しました。このことが、MOCHIKIN氏、ひいては墓場文庫のゲーム開発の大きな転換点となります。
「制限」こそがクリエイティビティを加速させる

墓場文庫はAdventure Creatorを活用したゲーム開発を進め、2020年9月1日、ミステリーアドベンチャーゲーム『和階堂真の事件簿 – 処刑人の楔』をリリースします。開発開始からリリースまでに要した時間は3か月ほど。さらに、墓場文庫は1年以内に『和階堂真の事件簿』シリーズの続編と第3弾を立て続けにリリースすることになります。
このスピーディーな展開の裏には、2つの「制約」がありました。一つは、前述の通り「Adventure Creatorの機能のみを活用する」。もう一つは「場面転換の数を制限し、そのなかでストーリーを展開すること」です。
より具体的には、『和階堂真の事件簿』シリーズの各ストーリーは、それぞれ9つのシーン(場面)で構成されていますが、MOCHIKIN氏らは「シーン数を9つに限定すること」を決め、その制約の中で楽しめるストーリーを考案したのだと言います。
これが功を奏し、インディーゲームでは異例の開発スピードを実現。そしてこの経験は、墓場文庫の最新作である、ミステリーアドベンチャーゲーム『都市伝説解体センター』にも生かされることになります。
ノードエディター機能を活用し、「チーム開発」を実現する

『都市伝説解体センター』のシナリオは6話で構成されていますが、「『6話構成にすること』と、物語の結末である『大オチ』を決めた上で、ストーリーをつくり始めた」とMOCHIKIN氏。
同作の開発も、引き続き「Adventure Creatorの機能のみを活用する」ことを念頭に進めました。さまざまな機能を有するAdventure Creatorの中でも、『都市伝説解体センター』の開発において特に有用だった機能として、MOCHIKIN氏はコーディングの知識が無いメンバーでも、Unity上での機能実装などに参加することを可能にする「ノードエディター」を挙げます。
墓場文庫は、4名のメンバーで構成されています。シナリオの骨子は全員で考案し、MOCHIKIN氏がエンジニアリングを、ハフハフ・おでーん氏がグラフィックを、あだP氏がサウンドを担当。そして、きっきゃわー氏が全員が出したアイデアをまとめ上げ、具体的なシナリオや登場人物のキャラクター設定などを考案しています。

従来は、MOCHIKIN氏のみがUnityを操作し、メンバーそれぞれのアイデアを実装していました。一方で、『都市伝説解体センター』の開発では、ノードエディター機能を活用し、MOCHIKIN氏以外のメンバーも実装を担当する体制を構築。具体的には、あだP氏ときっきゃわー氏がUnityを直接操作し、それぞれセリフの修正やSEやBGMを鳴らすタイミングの調整などを行いました。
これにより、すべての実装作業がMOCHIKIN氏に集中することがなくなり、開発のスピードは劇的に向上。MOCHIKIN氏は「今後、各メンバーのUnityに関する知識がさらに深まっていけば、もっと効率良く、質の高いゲームがつくれるようになるのではないか」とチーム開発の今後を見据えます。
「セーブ&ロードの集約化」という価値
Adventure Creatorの恩恵はこれに留まりません。「開発者にとってAdventure Creatorを活用する最大のメリットは、セーブ&ロードが一括で可能になること」だとMOCHIKIN氏。
開発データのセーブ&ロードは、ゲーム開発を進める上で、開発者が頭を悩ませる要素の一つです。MOCHIKIN氏も、従来は情報が増えるたびにセーブデータの仕様を変更するなど、一定の工数を割かざるを得なかったそうですが、Adventure Creatorを導入したことで状況は一変。
「Adventure Creatorを使って作業をする限り、自動ですべての内容をセーブし、ロードもしてくれる。それだけではなく、情報を追加するためのツールも付随しているため、仕様を変更するためにコードを書く必要がなくなった。これは開発者にとって大きなメリット」とAdventure Creatorが提供する価値を語ります。
さらには、各プラットフォームに合わせた仕様でデータを保存することも可能なため、結果としてNintendo SwitchやPlayStation 5などへの移植も、スムーズに完了することになりました。
Adventure Creatorは「エターならないこと」を確定させる

また、MOCHIKIN氏は「Adventure Creatorを活用すれば、『エターならない』ことはほぼ確定する」とします。
その理由は、Adventure Creatorの特性にあります。「基本的に、このアセットを使って作成できるのは『一方通行』のゲーム」だとMOCHIKIN氏。「ストーリーの大きな分岐や後戻りといった要素は組み込みづらく、スタートからゴールへと直線的に向かうゲームづくりに適している」とし、「だからこそ、スタートとゴールさえ決めてしまえば、あとはその間を埋めていけばゲームは完成することになる」と言います。
つまり、Adventure Creatorを導入し、ゲームの「始まり方」と「終わり方」さえ決めてしまえば、「エターならない」ことは保証されるのです。MOCHIKIN氏は「何よりもエターナル現象に陥らないことが重要です。まずは完成までこぎ着け、それからクオリティを上げる。そういった開発の進め方ができるようになったことは、とても大きなメリットでした」と、Adventure Creatorの導入によって得られた最大の効果を表現します。
「ゲーム性の追求」と「エターナル現象のリスク」のバランスを取る

Adventure Creatorを導入し「制限」を設けることは、開発を効率化し、安定させる一方、用いる機能が限定されるため、ユーザーによっては「ゲーム性が低い」と感じられるデメリットも孕んでいます。
そのため、「基本的には制限を守りつつ、時にはその枠を自ら踏み出すリスクを取らなければならないと」とMOCHIKIN氏。実際に『和階堂真の事件簿』シリーズは、Adventure Creator以外のツールを用いて、機能を追加しています。
また、『都市伝説解体センター』の重要な機能である「SNS調査」と「仮説」システムも同様に、「制限」を超えて実装した機能です。開発の中盤を越えたタイミングで「ゲームとしてのメリハリが足りない」「ユーザーに伝わりにくい」という課題が浮き彫りになり、MOCHIKIN氏はあえて制限を取り去って新機能を追加する決断を下しました。
「制限」を越え、Adventure Creator以外のツールを用いることは、バグのリスクや開発工数の増大を招きます。「SNS調査」を実装する際には、Adventure Creatorのセーブ機能に組み込む必要性が生じ、多数のバグも発生したそうです。しかし、この「欲」を出した部分がユーザーから好評を得て、SNSでもこのモードのスクリーンショットが多く拡散されるなど、作品のヒットを決定づける要因となりました。
MOCHIKIN氏は「自分たちが納得できるゲームをつくる上で、どうしても制限の中ではうまくいかないときがあります。本来であれば、それでも制限を守るべきですが、ゲーム性を高めるためにリスクを取る判断を下すこともある」と語ります。
制限を設け、「エターならないこと」を前提としながら、時にリスクを取り、ゲーム性を追求する。それが、墓場文庫の開発スタイルなのです。
「ユーザーと開発者にやさしいゲーム」の可能性

そして、「ゲーム性の追求」と「エターナル現象のリスク」の最適なバランスの下、開発が進められた『都市伝説解体センター』は、発売3ヶ月で累計30万本を販売するなど、2025年における国内インディーゲームの大ヒット作の一つとなりました。
MOCHIKIN氏は、そのヒットの要因として「やさしいゲームであること」を挙げます。
「ゲーム市場には非常に難易度が高い、あるいは複雑すぎるゲームが溢れており、このことが理由でゲームから離れてしまったプレイヤーも少なくないと感じている」とMOCHIKIN氏。そのような市場環境の中で、墓場文庫はあえて『都市伝説解体センター』のゲーム性を高めすぎず、難易度を易化する選択をしました。実際にプレイした方からは「一度ゲームから遠ざかっていたが、このゲームならクリアできそうだと感じて手に取ってみたところ、とても楽しめた」という声が多く寄せられたそうです。
このことから、「ゲーム性を高める方向だけに、ゲームの可能性があるわけではないと感じた」とMOCHIKIN氏は言います。
また、そんな「プレイヤーにとってやさしいゲーム」は、MOCHIKIN氏が「開発者にとってやさしいゲーム(づくり)」を志向した結果として生み出されました。氏は「ゲームを完成させること」を最優先とし、ゲーム性については前述のように「必要最低限の追求」に留めています。その結果として、チーム全体が無理なく開発を進められる環境となり、そんな「やさしい」開発環境が、多くのプレイヤーがクリアの達成感を味わえる「やさしい」ゲーム体験として結実したのです。
さまざまなアセットを活用し、ゲーム体験を向上させる

そんな『都市伝説解体センター』では、Adventure Creator以外にもさまざまなアセットが活用されています。「Asset Storeを回遊するのが大好き」というMOCHIKIN氏に、おすすめのアセットを挙げてもらいました。
まずは、2Dゲームにおいてスムーズなカメラのセットアップとカスタマイズを可能にする「Pro Camera 2D」です。MOCHIKIN氏は『都市伝説解体センター』の開発を進める上で、このアセットを自作プログラムで拡張し、ノードエディターから扱えるようにしていたといいます。
また、テキストに命を吹き込む「Text Animator for Unity」も、墓場文庫にとっては欠かせないアセットの一つだそう。テキストの表示方法や「動き」のカスタマイズを可能にするこのアセットを活用し、『都市伝説解体センター』ではテキストを一文字ずつ表示する演出を加えています。MOCHIKIN氏はこのアセットを「ミステリーアドベンチャーのように、テキストを多用するゲームの開発における必需品」と評します。
さらに、同作ではさまざまな演出を可能にし、ゲーム体験を向上させる「Feel」も有効活用。たとえば、主要キャラクターの一人である福来あざみが、眼鏡を着用する際に画面が歪む演出は、このアセットを活用して実装したといいます。また、SNS調査のツイート表示には「Enhanced Scroller」が採用されています。これを活用することで画面に表示されている部分の情報のみを保持し、それらをリユースする仕組みを実現。大量の情報が流れるSNS調査でも、メモリに掛かる負荷を抑え、モバイル端末でも軽快な動作を実現しました。

MOCHIKIN氏は、「Adventure Creatorはミドルウェアのようなツールのため、UIに関する機能は少ない。だからこそ、フロントエンドについてはさまざまなアセットを活用し、体験を向上させる必要があると感じている」と、Adventure Creatorと他のアセットの組み合わせについて言及し、さらにこう続けます。
「Asset Storeには、夢があると思うんです。僕自身、絵が描けるわけでもなければ、作曲ができるわけでもありません。そんな僕でもAsset Storeを利用すれば、世界中の優れたクリエイターが作成したアセットを購入し、さまざまな表現ができる。それに、ゼロから素材や機能を作成しようとすると、時間もかかりますし、バグが生じるリスクも高まります。高いコストをかけず、リスクを最小化しながら、さまざまな表現ができるようになる。そういった意味で、アセットを多用しない手はないと思っています」。
欲を捨て、ただひたすらに「完成」を目指す

今後の展望を訪ねると、「直近の2作品はアドベンチャー要素が強いゲームだったので、そのゲーム体験を毀損することなく、新たな要素を追加して『アドベンチャー+α』のゲーム開発に挑みたい」とMOCHIKIN氏。『都市伝説解体センター』リリース後の多忙さが一段落したあたりから、新企画に取りかかる予定だといいます。
MOCHIKIN氏は最後に、エターナル現象と戦う個人・同人開発者に向けて、こんなメッセージを送りました。
「『おもしろいゲームをつくりたい』『すごいと言われたい』という気持ちは、とてもよく理解できます。ですが、これまでの経験上、そういった欲は捨てて『完成させること』を優先すべきだと思っています。さらに言えば、自分の力を過信しないことも重要です。『一人でできる』という思い込みから脱し、さまざまな人、あるいはものの力を借りるべきだと思います。Asset Storeを覗けば、多くの人が使っているさまざまなアセットが存在します。自らの理想やスキルだけを頼りにするのではなく、そういったアセットありきでゲームをつくることにチャレンジしてみる。それが、ヒット作を生み出す第一歩になるかもしれません」
※Nintendo Switch は、任天堂株式会社の商標です。
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