ブルーロック Project:World Champion
ルーデル:IPモバイルゲームのUnityケーススタディ
株式会社ルーデルは、『ドラゴンエッグ』『ドラゴンスマッシュ』というギルドバトル型モバイルゲームを中心に展開する、2013年創業のゲームスタジオです。「コミュニケーションの楽しさ」を自社のゲームの強みとして展開する同社が、2022年12月にiOS・Android向けゲーム『ブルーロック Project:World Champion』をリリースしました。
課題:現実世界のイベント開催スケジュールに合わせてリリース予定日を厳守しなければならない状況下で、Unityを活用したチーム全体での効率的な分業体制により、IPの世界観をゲームとして再現しつつも、バグを最小に抑えてオンスケジュールを実現。
プラットフォーム:iOS、Android
チームメンバー:約50人(アニメーター、プログラマー、ゲームデザイナー、UIデザイナーがUnityを利用)
所在地:日本、東京
大人気漫画・アニメ作品を題材に、短期間での開発でローンチへ
累計発行部数2800万部を突破し(2023年9月現在)、2022年にはテレビアニメ化もされた人気サッカー漫画『ブルーロック』のゲーム化プロジェクトに、同社はUnityの採用を決定。プロジェクトのキックオフから「2022年11月開催のワールドカップに間に合わせる」というスケジュール厳守の状況下にもかかわらず、独自のアドベンチャーシステムを実装して、作品の世界観を活かしたゲームに仕上げることができました。
成果
– 企画の肝であるサッカー「FIFAワールドカップカタール2022」のタイミングに合わせてリリースを守り、短い開発期間でオンスケジュールを実現
– ゲームの世界観を活かすために、Esoteric Software社製の2Dアニメーションツール・Spineでアニメーション設定したものをUnityへインポート。UnityのTimeline機能などを駆使してアニメーションシーンをリッチに表現
– アニメーター、プログラマー、デザイナーなど、ほとんど全員がUnityを共通プラットフォームにすることで、短期間でバグの少ない円滑な開発を実現
アニメと現実世界のイベントを連動させたかった
累計発行部数2800万部を突破し(2023年9月現在)、2022年にはテレビアニメ化もされた人気サッカー漫画『ブルーロック』。このスマートフォンゲーム化プロジェクトは、株式会社ルーデルが講談社へ、テレビアニメ化が決まった段階で企画を持ち込んだことから始まりました。2022年10月にはブルーロックを原作とするテレビアニメが放送予定、11月には世界的なサッカーイベントの「FIFAワールドカップカタール2022」が開催予定であったことから、アニメと現実世界のイベントが同時期に進行するタイミングでゲームを公開し、盛り上がりを生みたいという意図がルーデルにはありました。
しかしながら、講談社へ企画を持ち込んだ時期からすれば、「11月のワールドカップ開催タイミングに確実に合わせてゲームをリリースする」というプロモーションの実現は難しい状況といえました。通常、年単位で制作を続けることも多いスマートフォンゲームで、短い開発期間ながら確実にスケジュールに間に合わせながらも、ユーザーが満足して楽しめるクオリティの高いゲームをいかに作るか──ルーデル社内では入念な作戦会議が行われました。
豊富なアニメーション表現によりUnityを採用
結果として、リリースされた『ブルーロック Project: World Champion』はUnityで開発されていますが、それまでのルーデルでは他のツールを用いてゲームを開発してきました。Unityは近作の『ドラゴンスマッシュ』の開発から使い始めていましたが、ブルーロックという短期間での開発プロジェクトでは、使い慣れた従来ツールの方が良いのか、それともUnityを使うべきかが議論されたといいます。
「ブルーロックの世界観をいかに実現するか」という観点から、アニメーション表現の幅が広いUnityを使用すべきだという意見が、CGデザイナーや実装技術の選定をしていたエンジニアから挙がりました。また、アニメーションでTimelineが使えること、VFX Graphが使用できること、社内で使用実績のある2Dアニメーションツール・Spineで作成したデータをUnityへインポートできることも、Unityを使用する意思決定を後押しする理由となりました。
スケジュール厳守の中で、スピーディーな開発を実現
このプロジェクトは、FIFAワールドカップカタール2022の開催と同時にリリースすることが条件です。短期間でスピーディーな開発が求められる一方で、リリース後にバグを出さないことも求められます。それらを両立させる開発フローが入念に検討されました。
そこで、プロジェクト前半で基盤となるソースコードを作り、それがバグなく動作することをしっかり確認してから、開発リソースを増やして集中的に開発を進める計画が立案されます。まずは一人のキャラクターをしっかりと作り込み、念入りにバグチェックをした後、その動きをベースに他のキャラクターもアセットを用いて量産することで迅速な開発が可能となりました。
また、各機能単位でチーム制を敷き、分業したのも開発速度の向上に寄与しました。それぞれのチームにいる企画担当・エンジニア・デザイナーが独自に開発を進めて、トライアンドエラーを繰り返す。そして、開発の終盤にUnity上で全員が作業して統合させる。これらのフローにより、目標期日内のリリースに成功。その後も緊急メンテナンスが発生するようなバグは発生せず、安定した運用を可能にしています。
作品の世界観を生み出す独自のアドベンチャーシステム
『ブルーロック Project: World Champion』は、作品の世界観を活かした独自のアドベンチャーシステムも特徴の一つです。原作はサッカー漫画ですが、『ブルーロック Project: World Champion』ではサッカーとしての要素を限りなく削って、ゲーム性をシンプルにする。この方針は、開発チーム内で原作を読みながら、「ブルーロックはサッカーを知らない人でも楽しめる作品だ」という共通認識を持ったことから生まれました。
その代わりに、ブルーロックというIPが持つ長所を最大限まで引き出し、作品の世界観を反映するために「キャラクター」にこだわっています。会話シーンを多くしたり、一人のキャラクターに付随するアセット数を増やしたりと、キャラクターを引き立たせることでブルーロックの世界観に入り込めるようなゲーム性を採用しました。
しかしながら、キャラクターのアセットは一人につき背景など数十種類設けられており、工夫しなければ動作が重くなってしまいます。また、スマートフォン向けゲームとはいえ、原作でキャラクターごとにファンがいることを鑑みても、表示する画像や画質を荒くしないことも条件になってきます。
そこで鍵になるのがメモリ制御。本作でも複数の工夫が施されています。たとえば、エンジニアは細かなAddressableをカスタマイズし、メモリ管理の仕組みを実施。エンジニアがプロファイラを見て、基底のメモリを超えてないか常に注視しました。また、アニメーター側でも最大限の表現をしつつ、画像圧縮設定周りを適切なものにする、といったバランスを調整を行いながら、最終的な見栄えをQAチームが複数端末で確認。これらを高速にトライアンドエラーを繰り返すことで最適解を導き出したといいます。
SpineとTimeline機能を用いたアニメーション設定
キャラクターの動作には、Spineでボーンやアニメーション設定などを行い、それらをUnity向けにエクスポートしています。また、アドベンチャーシステムの開発環境は、UnityのUI ToolkitでUnityエディタをカスタマイズして制作。
アニメーションシーンには、動的に切り替えられるTimeline機能を多用しています。その結果、キャラクターがスキルを発動したときなどは、演出や表現の部分だけをチューニングすることで、高いクオリティのカットシーンを実現。こうした機能群の活用があったからこそ、漫画やアニメの世界観を損なわずに、『ブルーロック Project: World Champion』がアナザーストーリーとしてゲームを展開できたと、とルーデルの開発陣は自負しています
様々な職種のスタッフとのコラボレーションをUnityで実現
Unityを使う大きなメリットは、「各チームが各々のペース・判断で作れる」という強みだといいます。とりわけ、今回のプロジェクトではエンジニアだけでなく、アニメーター、ゲームデザイナー、UIデザイナーといった職種の方々もUnityを使って、各々が手を動かして開発を進めたことが、開発の効率性を向上させました。
最初はUnity初心者だったUIデザイナーも、すぐに使用方法を習得。エンジニアがリソースを使わなくても、UIデザイナーが制作物をチェック・修正するなど補い合って動くことで、リソースの有効活用が可能になります。
Unityは初心者にも分かりやすく、習得者が多いことやレファレンスが豊富なことなどから使い方で困ることが少ないため、さまざまな職種が連携してより良いものを作り出せます。
『ブルーロック Project:World Champion』は、今後もアップデートを続けていく予定です。。今後はさらに原作のキャラクターを増やしていくと同時に、新しい機能を実装していければと考えています。
開発者の声
ゲーム開発というのは明確な正解がないため、職種の垣根をこえてチーム一丸となって何度も試行錯誤しながら開発を行うことが大事だと考えています。それを実現するためにUnityは様々な職種の方でも扱いやすく、高速に試行錯誤を行うことに長けており、我々のゲーム開発においてもはや欠かせないツールとなっております。
~ 半沢 匠, 株式会社ルーデル VP ~