スマホゲームの黎明期から、数々のヒットタイトルを世に送り出してきたDeNA。そんな同社がクラッシュレポートツールとして新たに採用したのがBacktraceだ。
ツールの選定に携わった白柳隆澄さんと原田喜仁さんは、「ユーザーファーストを掲げるDeNAだからこそ、より効果的なクラッシュレポートツールが必要だった」と口を揃える。
おふたりはBacktraceのどのような点を評価したのか。実装をどのように進めていったのか。そしてクラッシュレポートツールに求められる本質的な役割とは何なのか、お話を伺った。
クラッシュログは「溜める」だけでは意味がない
——Backtraceを導入した背景から教えてください。
白柳:それまで弊社で使用していたSmartbeatというクラッシュレポートツールの提供が終了したことが直接的なきっかけです。ベンダーから連絡を受けた時点で、提供終了まで1年を切っていたため、急ピッチで新たなツールの選定を進めていきました。
複数のツールを比較するなかで、ポイントとなったのが開発環境との親和性です。弊社ではUnityだけではなく、自社の開発ツールで進めているタイトルもあるため、その両方に対応できることが必要条件でした。
——その条件を満たすなかで、最終的にBacktraceを選ばれた理由は?
白柳:決め手になったのは、Backtraceの使い勝手の良さです。レポートにさまざまな情報を付加できるし、検索条件も細かく設定できる。コンソール画面のUIも優れていて、直感的に操作できます。「これしかない」という感じで、導入を決めました。
原田:検索機能は本当に充実していますよね。クラッシュログは「溜める」だけでは意味がありません。どんな条件で、どんなクラッシュが起きたのかを分析してはじめて有効活用できます。
その点、Backtraceはクラッシュログから直前の挙動などを詳しく絞り込める。個々のクラッシュの原因の特定はもちろん、公開中のタイトルでどういった傾向のクラッシュが発生しているのかを調査する際にも役立ちます。そういった情報を多角的に収集し、抜本的な改善につなげていくことが、クラッシュレポートツールの本質的な役割だと感じています。
マニュアルの多くが日本語訳され、実装から運用開始までスムーズだった
——採用から実装までのスケジュール感を教えてください。
白柳:Unityの担当者さまにテストアカウントの発行をお願いしたのが、昨年の10月くらいだったと思います。そこから2カ月ほどかけて機能面を検証していきました。
原田:並行してBacktraceの利用規約が弊社のプライバシーポリシーなどに抵触しないか、法務との擦り合わせも進めていきました。そうした確認が一通り済んだのは、年明けくらいだったと記憶しています。
白柳:そうですね。2022年の1月には本格的にSmartbeatからBacktraceへの移行に着手しました。最初にBacktraceへ移行したタイトルはUnityで開発したものだったこともあって、実装作業自体は1ヶ月もかからなかったですね。今はほとんどのタイトルで移行が完了しています。
——実装にあたって、苦労はありませんでしたか?
白柳:Unityで開発したタイトルへの実装は、まったく苦労がなかったです。本当に「マニュアル通りにやるだけ」といった感じでした。この手のツールは英語のマニュアルしかないことが多いのですが、Backtraceはマニュアルのほとんどが日本語訳されているのもありがたかった。そういった配慮も含めて、安心して実装を進められました。
——Unity以外のツールで開発されたタイトルについてはいかがでしたか?
白柳:Unityで開発したタイトルと比べると、少しだけ手こずりました。たとえば、弊社の開発ツールでは、Backtraceで提供されているライブラリをうまく読み込むことができなかったり。ただ、この問題はUnityの担当者さんがライブラリの形式を書き換えてくれたことで無事に解決しました。
ほかにもいくつか想定外の要素はありましたが、その都度、Unityの担当者さんが手厚くサポートしてくれたので、大きなトラブルには至りませんでしたね。手こずったとは言っても、それはUnityで開発したタイトルと比較しての話で、全体的にはスムーズに実装できたと感じています。
——実装後、開発現場の皆さんはすぐにBacktraceに慣れましたか?
原田:そこも非常にスムーズだったと思います。検索機能も使い方なども、簡単なレクチャーですぐに習得できました。Backtraceの直感的なUIのおかげだと感じています。
クラッシュレポートの究極の目標は、必要とされなくなること
——導入から数カ月が経ちますが、現時点でBacktraceのどんな点に価値を感じていますか?
原田:話が少し逸れてしまうかもしれませんが、私はクラッシュレポートツールの究極の目標は「必要なくなること」だと思っています。開発段階でクラッシュの要因をしらみつぶしにして、安定して稼働するタイトルをリリースすることが理想です。
けれど、現段階の技術では、それはまだまだ難しい。弊社が力を入れているスマートフォン向けのタイトルでは、特にそうですね。ユーザー側のプレイ環境・端末の種類が多様すぎて、クラッシュの要因を事前にすべて潰しておくことは事実上不可能です。だからこそ現段階では、サービスクリティカルな問題を特定し、迅速にトラブルシューティングしていくしかない。そのためのツールとして、Backtraceは非常に有効だと感じています。
白柳:同感です。それにBacktraceは、カスタマーサポートの分野でも活用できそうですよね。Backtraceの高い検索能力を使えば、お客さまへの回答もより的確で迅速になるはずです。まさにDeNAが掲げる「ユーザーファースト」の価値観を実践するツールになると感じています。
原田:カスタマーサポートの効率化は、費用対効果の観点からも大きな意義があります。ユーザー数が多い人気タイトルでは、サービスの終了までに何千万件という問い合わせが寄せられますからね。1件あたりの処理時間を数分短縮できるだけでも、大幅なコストカットが期待できます。
きめ細やかなユーザーサポートも、Backtraceの魅力
——そのほかに今後、Backtraceに期待することや、Unityへの要望があれば教えてください。
白柳:個人的にはBacktraceのポテンシャルをもっと引きだすため、各種ツールとの連携強化を模索しています。
たとえば、「誰がどのクラッシュに対応するか」といったステータス管理は、ほかのツールと連携することで、さらに便利になるはずです。そのほかにもアカウント管理の自動化なども視野に入れながら、より効率的にBacktraceを運用していきたいと考えています。
原田:弊社の標準的なクラッシュレポートツールとして、長期的かつ包括的にBacktraceを利用していきたいです。そうなると、個々のタイトルにおいて、特殊な対応を求められるケースも増えてくるでしょう。その際には、日本のゲームスタジオ向けにBacktraceの正規代理店として展開するUnityさんのお力添えいただけると嬉しいですね。(補足:BacktraceはUnityの公認ソリューションパートナーです)
現時点でも、専用のスクリプトを書いてもらうなど、本当に手厚くサポートしていただいていますので、今後も変わらぬ支援を期待しています。DeNAが目指す思わず笑みがこぼれてしまうような質の高いサービスをお届けするために、Backtraceをフル活用していきたいですね。