Unity歴10年超えのビサイドが語る!制作環境の進化と最新作『おじさまと猫 スーパーミラクルパズル』の開発プロセス

2022年1月より配信されている『おじさまと猫 スーパーミラクルパズル』。開発を率いたのは『どこでもいっしょ』シリーズなどで知られる株式会社ビサイド。単行本の累計発行部数200万部を超えた人気原作マンガの世界観を引き継いだストーリーパートや、滑らかに動くパズルパートをUnityを駆使して形にした。

ビサイドは長年、Unityでゲーム開発を続けてきた企業の一つ。新機能を積極的に試し、現場に取り入れ、制作環境を進化させてきた。

今回は、代表取締役社長の南治一徳さん、リードプログラマーの村上和樹さん、テクニカルディレクターの前嶋潤さん、テクニカルアーティストの星哲哉さんを迎え、『おじさまと猫 スーパーミラクルパズル』の開発経緯やUnityの活用方法、長年の経験から感じるUnityの良さ、今後の期待を語っていただいた。

株式会社ビサイド代表取締役社長 南治一徳氏、リードプログラマー 村上和樹氏、テクニカルディレクター 前嶋潤氏、テクニカルアーティスト 星哲哉氏)
目次

マルチプラットフォームやパフォーマンス向上、Unityがもたらしたゲーム制作の変化

——ビサイドでは2010年ごろからUnityを使っていると聞きました。導入のきっかけは?

南治:もともとユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前(広樹)さんと知り合いで、2010年以前からUnityに興味を持っていたんです。

そのうえで2010年ごろ、iPhone向けにリリース済みの絵本アプリをAndroidに対応させる必要があって。Unityの実装を試してみたのが導入のきっかけでした。

部分的ではなく、大々的にゲーム開発で使ったのは、2014年9月リリースの『魔法科高校の劣等生 LOST ZERO』からです。iOSとAndroid向けの同時リリースが決まっていたので、マルチプラットフォームに展開できるUnityを選びました。

今でこそ、複数のコンソールやモバイルデバイスでの同時リリースは珍しくありませんが、当時はほとんど例がなかった。モバイル向けのネイティブアプリでiOSとAndroid向けに同時リリースしたのは、『魔法科高校の劣等生 LOST ZERO』が弊社にとっても初めての事例となりました。

前嶋:同時リリースと聞いたときは「本気か?」と(笑)。ただ、実際にUnityで開発してみると、両方のデバイスで問題なくゲームが動き、「こんなことができる時代なんだ」と驚きましたね。

——導入から今までを振り返り、特に印象深いリリースや機能追加はありますか?

南治:2015年ごろのJSON公式サポートが追加されたことですね。ちょっとクセのある実装だったので対応が大変でしたが、とても効率的に処理できるようになりました。特にUnity上でゲームを立ち上げるまでに必要な時間などは、サポートが追加される前に比べ、半分くらいに短縮され、消費メモリもかなり減少できました。 

前嶋:Unity4でMecanim(キャラクターのアニメーションを作成するための多様な機能)が追加されたのも思い出深いです。『魔法科高校の劣等生 LOST ZERO』でも大いに活用しました。

Mecanimを使うと、男性キャラクターのモーションの一部を、女性キャラクターのモーションに一部活用するなどして共通化できる。モーション数の割にはデータ量を抑えられました。

最近の機能追加だとUnity Addressable Asset Systemですね。アプリ外部からアセットを読み込めたり、外部と内部のアセットを分け隔てなく扱ったりできます。以前は専用ツールを内製していたので、Unity内でアセット管理が完結するのは便利ですね。

——導入初期に比べ、Unityの変化をどのように感じていますか。

南治:表現力はとても高くなったと感じます。例えば、エフェクト演出を作るパーティクル系の機能。当初はパーティクルエンジンのShurikenのみで、使えるエフェクトにも制限がありましたが、近年ではGPUでシミュレーションするVFX Graphなど多様な機能が追加されています。

Unityは目玉機能が一度入って終わりではなく、バーションアップを重ねています。使い続けているうちに自分たちのゲーム制作も自ずと進化していく。これは、Unityのように長く安定して開発されているゲームエンジンを使う大きなメリットだと感じます。

Unity×Spineで原作通りの愛らしい2Dキャラクターを表現

——ここからは最新作の『おじさまと猫』について伺います。そもそも開発のきっかけは?

南治:懇意にしていただいているスクウェア・エニックスのプロデューサーから相談を受けたんです。原作マンガの世界観や魅力が伝わるゲームを作るにあたって、ビサイドが過去に手がけた『トロとパズル~どこでもいっしょ~』のようなパズルゲームがマッチするんじゃないかということでお声がけいただきました。

——世界観や魅力を伝えるキャラクターのビジュアルや動きは、どのようなプロセスで制作していったのでしょう?

星:まずキャラクターを2Dと3Dどちらで表現するか議論し、原作マンガに近いビジュアルを作るため2Dを選びました。

キャラクターの動きはSpineというアニメーション制作ツールで設計し、Unityにエクスポートしています。Spineはゲーム用の2Dアニメーションに特化しており、コロコロと愛らしくキャラクターを動かすモーションを作りやすい。さらにUnityと親和性が高く、エクスポートなどもスムーズに動作すると知り、導入を決めました。

実際の作業も大きな引っかかりはなく、着実に進められました。

シナリオ担当やアーティストと連携し、こだわりのストーリーパートを構築

——ストーリーパートは2Dの愛らしいキャラクターが登場しますね。こちらの制作プロセスは?

南治:まず『おじさまと猫』の開発が始まった際、スクウェア・エニックスの担当者からストーリーパートのイメージ動画を共有してもらっていたんです。印象的なコマや吹き出しを組み合わせ、あらすじを紹介していく原作マンガのプロモーション動画でした。

これまでビサイドでは、比較的シンプルなストーリーパートを、スクリプトで作る事例が多かったので、複数のコマや吹き出しを組み合わせた動画を見て「どうやって実装しよう」と少し悩んでしまいました。

調査の末に選んだのがUnityのタイムライン(オブジェクトのアニメーションやエフェクト、音声などをTimelineエディターで配置・編集し、シーンを作成できる機能)です。

吹き出しやエフェクトを足す操作も簡単ですし、プレビューの確認もエディター上でシーケンスを動かすだけで済みます。スクリプトで作ると、特定箇所を確認するために動画を初めから再生し直す必要がありますから。今回のように一定の長さがあり、登場する要素も多いストーリーパートの制作では、タイムラインが最適でした。

村上:タイムラインはカスタマイズ性が高いのもありがたかったです。ストーリーパートはシナリオ担当者やアーティストと密に連携しながら作りますので、非エンジニアでも使いやすい環境を用意したいと考えていました。どういう機能があるとさらに使いやすいか、ヒアリングを重ねました。結果をもとに、ゲーム内のオブジェクトとアニメーションの紐づけを簡単に行えるツールなどを作成し、活用しています。

——開発全般において、タイムライン以外に役立った機能はありますか?

前嶋:uGUI(ボタンなどゲームのユーザーインターフェースを直感的に作成できる機能)ですね。NGUI(Unity Asset Storeの有料アセット)の機能が丸ごと組み込まれており、ボタンを押したときの制御や重なりの有無を判断してくれる。UIの制作を効率的に進められました。

あとは Device Simulatorも便利でした。端末ごとの動作確認だけでなく、縦画面と横画面それぞれの動作確認も行えます。

南治:最新の機能だとCloud Build(クラウドで高速にビルドし、複数端末に共有・配布できる機能)も毎日使っていました。会社に置いてある専用のマシンを動かし、一定時間をかけてビルドする手間が省けました。

『トロとパズル』の学びを生かし、気持ちよく動くパズルパートを模索

——パズルパートについて『トロとパズル』から進化した点などはありますか?

前嶋:『トロとパズル』で動きが重かった部分などが滑らかに動作するよう改善を加えました。

また、メモリを内部で確保しすぎないようゼロアロケーション化を進め、パフォーマンス向上を図っています。

あとは、今後もパズルに新しいギミックを順次追加する予定ですので。手を加えなければいけない範囲を減らすため、できる限り多くの処理をギミック側で完結させるようコードを調整しました。

一つのプラットフォームで多種多様なゲームを作れるのがUnityの魅力

——これからUnityで活用したい機能があれば教えてください。

前嶋:スクリプタブルレンダーパイプラインを導入し、より精緻な絵作りにも挑戦したいです。また、私自身がデータオリエンテッドな構造に興味がありますし、『おじさまと猫』は沢山のピースが動くタイトルなので、Burst compilerを使って高速化を図ってみたいと思います。

村上:Sequences(映像を構成する要素やコンテンツを編集し、映像を作成できる機能)を活用したいです。パッケージ内のサンプルを見て、『おじさまと猫』のストーリーパートの見栄えもより良いものにできるのではと期待が高まりました。

星:同じくSqeuenceを使って、よりハイエンドな映像制作に近い作り方で、ゲーム内動画を作ってみたいです。

また、今回は2Dでキャラクターを表現しましたが、3Dでも原作マンガに寄せた表現ができないか、ということにも興味があります。3Dなら複数のアングルを行き来したり、2Dよりも多様なアクションを追加できたりする。3Dのメリットを活かしたキャラクター表現も模索したいですね。

——Unityを使って、ビサイドでは今後どのようなゲームを作っていきたいですか?

南治:パズルゲームは『トロとパズル』と『おじさまと猫』で知見が貯まったので、次は異なるジャンルのゲームにもチャレンジしたいです。最近はモバイルデバイス向けのゲームが多かったので、コンソール向けのアクションゲームなども作ってみたい。一つのプラットフォームで多種多様なゲームを作れるのもUnityの大きな魅力。今後も存分に活用していきたいです。

——今日はありがとうございました!

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