あらゆるプラットフォームで、気持ちよく遊べるデジタルカードゲームを。『遊戯王 マスターデュエル』開発チームに聞く、Unity採用の理由

コナミデジタルエンタテインメントが2022年1月にリリースした『遊戯王 マスターデュエル』。累計ダウンロード数は4月27日時点で3000万を突破するなど、遊戯王オフィシャルカードゲーム(OCG)のファンを中心に熱烈な支持を集めています。

今回お話を伺ったのは、そんな同作の開発チーム。遊戯王OCGという、世界中にファンがいる歴史あるカードゲームをデジタル化し、クロスプラットフォーム対応&マルチプレイでユーザーへ届ける上で、どのような工夫が求められたのか。そこにUnityがどう貢献したのか。

​​ディレクターの​吉川貴彦さん、​プログラムリーダーの松本一也さん、デザインリーダーの庄司泰之さんにお話を伺いました。

目次

より本格的な『デュエル』を体験してもらうために

──はじめに『遊戯王 マスターデュエル』(以下、マスターデュエル)というタイトルを立ち上げた経緯から教えてください。

吉川:弊社では、これまでも遊戯王OCGのデジタル化に取り組んできました。なかでも現在、多くのユーザーに遊んでいただいているのが、2016年から配信をスタートした『遊戯王 デュエルリンクス』(以下、デュエルリンクス)です。

この作品の最大の目的は、遊戯王という作品自体のファンやOCGのプレイ人口を増やすことにありました。そのため、制作にあたってはモバイル端末で気軽に遊べるゲームであることを重視し、対戦ルールもOCGのルールを簡略化したゲームオリジナルのものになっています。

──遊戯王にふれる「きっかけづくり」としての意味合いが強かったのですね。

吉川:そうですね。デュエルリンクスは、十分にその役割を担ってくれていたのですが、いずれはデュエリスト(※OCGのプレイヤーのこと)のみなさまが、さらにステップアップできるようなゲームも必要になると考えていました。

そこで2019年頃から開発がはじまったのが、今回のマスターデュエルです。アナログカードゲームとしてのOCGに近づけるために、対戦ルールはOCGの現行ルールをほとんどそのまま再現。収録カード数もデュエルリンクスより大幅に増加して、現時点で10,000種類以上を実装しています。

──リリース後の反響はいかがですか?

吉川:まずはコアなOCGファンのみなさまから、大きな反響がありました。彼らの熱量のある口コミがSNSなどを通じて拡散した結果、これまでOCGをプレイしたことがなかったユーザーも徐々に増えつつあり、私たちとしても大変うれしく感じています。

Unite Tokyoで得た知見が、Unity採用の決め手に

──マスターデュエルの開発にあたって、ゲームエンジンの選定はどのように進めていったのでしょうか? 

松本:デュエルリンクスをUnityで開発していたので、まずはそのままUnityでプロトタイプをつくりました。

ただ、私自身はUnityで次世代機向けのゲームを開発したことがなくて。マスターデュエルは次世代機を含めたマルチプラットフォーム対応が前提となっていたため、一旦はゼロベースでゲームエンジンの選定を進めてきました。とはいえ、開発初期はどのように進めていくのか判断しかねていたのも事実です。

──どういった点に悩まれたのでしょうか?

松本SRP(Scriptable Render Pipeline、スクリプタブルレンダーパイプライン)についてですね。一時期は、モバイル端末はURP(Universal Render Pipeline、ユニバーサルレンダーパイプライン)で、次世代機はHDRP(High Definition Render Pipeline、HD レンダーパイプライン)でつくろうかと考えたりもしました。

けれど、URPとHDRPを併用するとデザイナーの作業量が2倍以上になってしまう。どうしようかと悩んでいるときに参加したのが、Unite Tokyo 2019です。会場でUnityスタッフの方へSRPについて質問したところ、「モバイル端末も次世代機も、URPで問題なく対応できるはず」とのアドバイスをいただきました。

URPを活用したデジタルカードゲームの開発事例も見せていただいたのですが、一度にかなりの枚数のカードを表示した状態でも、スムーズに画像が処理されていて、「これなら次世代機もURPで対応できる」と確信しました。実際に、URPのパフォーマンスは「素晴らしい」のひと言です。

ユーザー同士がノウハウを共有し合ってることもUnityの魅力

──開発メンバーのみなさんは、Unityでの開発経験がある程度はあったのでしょうか?

松本:私を含めて、初期の開発メンバーはUnityでの開発経験がそれほど豊富だったわけではありません。のちにUnityでの開発に慣れた人もジョインしましたが、「そもそもゲームの開発自体がはじめて」というメンバーも少なからずいて。その点、Unityはウェブや参考書などに多くの情報があり、チュートリアルが充実しているのはありがたかったですね。未経験者でもスムーズに習得できました。

──Unityを使うのは、主に開発チームのメンバーの方ですか?

庄司:デザインチームも積極的にUnityを使っていきました。マルチプラットフォーム対応のゲームを制作する場合、デザイナーが演出などを微調整するたびにエンジニアがシェーダーを書いていたのでは開発に時間がかかり過ぎてしまいますし、デバイス固有のトラブルを引き起こす原因にもなりかねません。

そこで今回はShaderGraphを活用し、挙動やレイアウトをデザイナーが直接調整していきました。こうした制作体制を取ったことで、結果的に開発スピードは劇的に高まったと感じています。

──御社ではデザイナーがUnity上で作業することはよくあるのでしょうか?

庄司:個々のデザイナーが、ここまで Shader Graph を使いこなす体制は社内でも異例です。もちろん新たな試みなので、当然Unityに触れたことがないデザイナーがほとんどでした。しかも、デザインチームが本格的に動きはじめたタイミングで、ちょうどコロナ禍によるリモートワークに移行したため、チーム内でノウハウを共有しあうことも難しくなってしまった。

ただUnityの場合、ネット上でユーザーのみなさんがノウハウをシェアしてくれていますよね。それを参考にしていけば、経験が浅くとも、比較的簡単に自分の「したいこと」を実現できると感じています。

対応言語数×10,000種類という、膨大な枚数のカードを実装するために

──開発にあたって、特に苦労した点はありますか? やはりマルチプラットフォームへの対応についてでしょうか。

松本:そうですね。デュエルリンクスの時点で、モバイル端末やPCからのクロスプレイは実装していたので、ある程度のノウハウはあったのですが、やはりアカウント共有の仕組みの構築には苦労しましたね。 

開発チームが苦心したのは、カードの美しさをいかに表現するかという点です。先ほど、10,000種以上のカードを収録しているという話が出ていましたが、実際には多言語対応をしているため、「言語の数×10,000」枚のカードを実装しなくてはならないわけです。

──そうなるとアセットを管理するだけで大変そうですね。

松本:さらにマスターデュエルでは、画面上に一度に表示されるカードの枚数がデュエルリンクスよりも大幅に増えたため、レンダリング処理にも試行錯誤が求められました。

たとえば、カードのテキストには禁則処理をほどこしているのですが、これをプログラムで実行しようとすると、5枚のカードをめくるだけで、10秒以上もかかってしまって。この問題を解決するために活用したのが、TextMesh Proです。フォントサイズを計算し、どこで改行するのかを自動で判断してくれるため、迅速な処理が可能となりました。

今後の展開にもつながってくる話ではあるのですが、こういった工夫を施すことにより、テンポの良い対戦環境をつくることができていると思います。

e-sportsも視野に、対戦者も観戦者も楽しめるゲームを

──デジタルカードゲームというジャンルに参入するにあたって、特にこだわった点を挙げるとすれば、どこになるでしょうか? 

吉川:企画段階から掲げていたのは「対戦者も観戦者も楽しめる」というコンセプトです。その実現にこだわったことが、結果的にデジタルカードゲームならではの魅力を引き出すことにつながったと感じています。

──具体的には、どんな工夫をしたのでしょうか? 

吉川:OCGの複雑なルールを、わかりやすくアシストする機能やUIを実装していきました。たとえば、魔法カードやトラップカードの効果の対象となるカードを視覚的に示す、といった工夫ですね。シンプルなことですが、それだけでもグッとデュエルが楽しみやすくなります。 

庄司:演出面でこだわったのは、アナログ版の プレイ感 ですね。全体的にエフェクトが控えめなのは、そのためです。カメラの位置を固定しているのも、盤面を上からのぞき込んでいるような感覚でプレイしてほしかったからです。この点は、映像的な演出をたっぷりと盛り込み、アニメ版の遊戯王を意識しているデュエルリンクスとの違いにもなっています。

もちろん演出をシンプルにしたといっても、遊戯王の世界観や雰囲気は、マスターデュエルでもしっかり表現していきたいと考えていました。そのため光の当て方やレイアウトは、かなり細かく調整しているのですが、ここでもデザイナーが直接Unityを触れる体制を構築していたことが生きたと感じています。

──観戦者が楽しむための工夫についても教えてください。

松本:最大のポイントは、大型スクリーンなどでの観戦を想定し、4K画質に対応した点です。一方で、同時にモバイル端末の解像度にも対応しなければならないので、プラットフォームによって読み込みやレンダリングの速度を変えるなど、どんな環境からでも快適にデュエルができるように工夫しています。 

──大型スクリーンに対応しているということは、e-sportsのような観戦スタイルもあり得そうです。 

吉川:そうですね。多言語対応も実装していますから、いずれはマスターデュエルの世界大会も開催してみたい。世界中にファンがいる遊戯王OCGには、十分にそのポテンシャルがあると感じています。

e-sportsへの発展も視野に入れ、遊戯王OCGの裾野をさらに広げていくことに貢献ができたら理想的ですね。

ⓒスタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・KONAMI

ⓒKonami Digital Entertainment

目次