インタラクティブな「デジタル星空観察」を。GINZA 456 Created by KDDI『願いツナグ星空』の開発チームがUnityを選んだ理由

KDDIのコンセプトショップ「GINZA 456 Created by KDDI」において2022年10月31日まで開催するイベント『願いツナグ星空』。

会場の壁面360度を取り囲む星雲や流星群、参加者の動きに応じて波紋を作る“星屑の水面”などの「デジタル星空観察」が楽しめる。また、脳科学とIT技術を組み合わせたブレインテックを活用し、会場内のタブレット端末と脳波計で読み込んだ脳波に応じて、壁面に現れる星のオブジェクトが変わる「願いの星」なども、体験できる。

また、スマートフォンから専用サイトに「願いごと」を入力しても、壁面に星のオブジェクトが映し出されるなど、会場外との接続もリアルタイムに処理されているのも特徴的だ。

この臨場感あふれるデジタル空間の創造にもUnityが活用されている。プロジェクト全体を統括したKDDIの升本浩さん、コンテンツの開発を担当したstuのクリエイティブディレクター・古屋遙さん、ビジュアルアーティスト・すぎのひろのりさんに、空間設計へのUnityの活用や、本プロジェクトを通じて見据える未来像について話を伺った。

(株式会社stu 古屋遙氏、 すぎのひろのり氏、KDDI株式会社 升本浩氏)
目次

いずれは都市規模のメタバースも? 想像を超える体験を、銀座から

──はじめに『願いツナグ星空』を企画した経緯から教えてください。

升本:KDDIでは、au 5Gをはじめとした先端テクノロジーを活用して、みなさまの思いや笑顔をつなぐことを目指した「GINZA 456 つなぐプロジェクト」を推し進めています。
その一環として2022年の春に、脳波に応じてデザインが変化する「桜」を壁面大型ディスプレイにプロジェクションする『願いツナグサクラ』という企画を実施しました。

これがお客さまから大変好評で、それなら今度は七夕をモチーフに第二弾をつくろう、ということになったんです。そこで『願いツナグサクラ』の開発を手がけてくれたstuの古屋さんたちにご相談し、ディスカッションを重ねるなかで生まれたのが今回の『願いツナグ星空』でした。

2022年の春に実施した『願いツナグサクラ』

──古屋さんたちが所属するstuとはどんな会社なのか、改めて伺えますか。

古屋:弊社は、5GやXRをはじめとした先端テクノロジーを駆使し、空間演出からコンテンツ制作までを手がけるクリエイティブカンパニーです。KDDIさんとは、コンサートホールのDXに向けたワイヤレス映像撮影システムやデジタルツインの実証実験など、主にエンターテインメント領域で協業してきました。そうしたご縁もあって、『願いツナグサクラ』『願いツナグ星空』と続けてお手伝いできたことは、私たちにとっても大きな意味があったと感じています。

──どのような意味があったのでしょう?

古屋:私たちはいずれ、都市を丸ごと覆うような大規模なメタバース空間を構築したいと考えています。そのためには『願いツナグ星空』でも用いた、インタラクティブな映像表現や、オンラインユーザーとの双方向コミュニケーション技術が欠かせません。もっと言えば、それらの基盤となる「複合的なデータを合理的に統合するシステム」の構築が必要不可欠です。GINZA 456での一連の企画は、そうした技術の開発ノウハウを実践のなかで得られる上に、お客さまのリアルな反応にも触れられる、またとない機会でした。

Unityを活用し、短期間でハイクオリティなプロジェクションマッピングを

──どのような体制で開発を進めていったのでしょうか?

すぎの:システムの開発は、基本的に私一人で担っています。今年の5月から本格的に着手し、一通り完成するまでにかかったのが1カ月くらい。そこから実際に現場で機材を配置し、クリエイティブディレクターの古屋とも議論しながら、2〜3週間かけて細部をブラッシュアップしていきました。

──トータルで2カ月もかかっていないのですね。それも、たった一人でとなると、かなりの急ピッチに思えますが。

すぎの:開発期間を短縮できた理由は2つあって、まずは『願いツナグサクラ』からシステム自体に大きな変更がなかったこと。もう一つは、開発環境にUnityを用いたことです。僕はもう10年以上、Unityで体験型のデジタルインスタレーションを手がけていますが、やっぱり使い勝手がいいんですよ。

たとえば、星空や流星群、銀河の複雑なエフェクトも、Visual Effect Graphを活用すれば、あっという間につくれてしまう。各素材のパラメーターを、Timelineによって制御すれば、多種多様な演出が思いのままです。Unity以外の開発環境だったとしたら、とてもこの短期間でここまでのクオリティには持ってこられなかったと思います。

──開発にあたって、特にこだわった部分はありますか?

すぎの:部屋のどの位置からも、正しいパースで壁面の映像が見えるようにこだわりました。今回は横長の壁にプロジェクションするので、そのままだと壁の端の方の映像に極端なパースがついてしまうんです。それを防ぐために、頂点シェーダーを用いて、細かく補正しています。

──機材の構成についても教えてください。

すぎの:全部で22台のプロジェクターと、正面に設置した4K解像度のLED液晶一枚を、4台のPCで制御しています。正面、左面、右面、床面を、それぞれ一台のPCが担っているかたちです。

各PCはNetCode for GameObjectsで同期させています。まだβ版であるNetCode for GameObjectsを利用することは、エンジニアとしてのチャレンジだったのですが、結果的には大正解でした。床で発生した波紋が、ほとんどシームレスに壁面まで伝わるくらい、とてもなめらかに同期できています。

UnityWebRequestで、スマホとの連携もスムーズに

──システムの完成後は、現場でどのように調整を進めていったのでしょうか?

升本:インフルエンサーをはじめ、幾人かのモニターを実際に招き、彼らのフィードバックをもとに、調整すべき箇所を絞り込んでいきました。ちなみにこの段階でも、インタラクティブに広がっていく波紋は「SNSできっと映えるはず!」と高い評価をいただきました。

古屋:タブレットに表示される画面のデザインや、操作の説明方法といったUXについても、この段階で細かくブラッシュアップしていきました。心がけたのは、とにかくシンプルに楽しめる体験に仕上げること。この企画はブレインテックをはじめとした先端技術があってこそ成り立つものですが、そういった難しいことは、あまり意識してほしくなかったんです。テクノロジーについて理解を深めてもらうことは、もちろん大切ですが、まずは「きれい!」「楽しい!」と理屈抜きに感じられる企画を目指しました。

──今回の企画は、スマートフォンから参加できることもポイントの一つだと感じました。

升本:そこは当初から強く意識していた部分です。やっぱりこの企画のテーマは「つなぐ」ですからね。GINZA 456を訪れた人と、アプリから参加した人とが、一緒になってひとつの空間を紡いでいく。そんなイメージを念頭においていました。

すぎの:技術的には、Web上のデータベースから吐き出された情報を、Unityで取得することで、スマートフォンから送信された「願いごと」をリアルタイムで「願いの星」として生成できるようにしています。UnityWebRequestによる通信処理は、ここ数年でどんどん使いやすくなっているので、この連携も非常にスムーズでした。

通信インフラが進化すれば、もっとたくさんの「願い」を叶えられる

──開催後の反響はいかがでしたか?

升本:開催期間が夏休みと重なっていたこともあり、お子さま連れのご家族を中心に大勢の方に訪れていただき、ほとんど連日満員でした。アンケート調査でも、多くの方が「また来たい」とポジティブな反応をしめしてくれています。当初は8月末を予定していた会期も、10月末まで延長になったので、さらに多くのみなさまにデジタル星空観察を楽しんでいただきたいですね。

──今回の成功を踏まえ、これからどんなプロジェクトに挑戦していきたいと考えていますか?

すぎの:古屋もはじめに話していましたが、今後はさらに大規模なデジタルインスタレーションを手がけてみたいです。そのときも、きっとUnityを使うと思います。スケールが大きくなり、やりとりするグラフィックデータの量が増えれば増えるほど、リッチさと軽量さを両立するUnityの強みが生きてくるでしょう。

古屋:とはいえ、通信トラフィックの絶対量が増えれば、エンジニアの工夫にも限界が出てきます。やはり膨大なデータをスムーズにやりとりするためには、超高速・大容量の通信インフラが欠かせません。KDDIさんと一緒にいくつかの案件を手がけるなかで、その実感がさらに深まりました。

升本:通信インフラの拡充は、まさに私たちの最大の使命だと思います。その上で、今回改めて感じたのは、多くの人が本当にさまざまな「願い」を抱いているということです。テクノロジーを駆使して、そうした願いを一つでも多く叶えられるような、そんなプロジェクトをこれからも手がけていきたいですね。

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