エイリムが初のPC・コンソール向けゲーム開発に、Unityを選んだ理由──全要素を「カード」で表現、新ゲームシステムはいかに生み出されたのか

2021年10月28日から29日にかけて、スクウェア・エニックスからNintendo Switch™、PlayStation®4、Steam®向けゲーム『Voice of Cards ドラゴンの島』が発売されました。このゲームの特徴は、テーブルトークRPGをモチーフに、キャラクターからフィールド、武器にいたるまで、全てをカードで表現している点にあります。

開発を担当したのは、『ブレイブ フロンティア』シリーズなどを手掛けてきたエイリム。同社にとって『Voice of Cards ドラゴンの島』はUnityを本格導入して開発された最初のタイトルであると同時に、初のPC・コンソール向けタイトルでもあります。

本記事では取締役開発部長を務める杉山浩氏、『Voice of Cards ドラゴンの島』で開発を担当した青木仁志氏、シェーダーの制作を担当した傑怪老氏の3人をお招きし、Unityを導入した背景から、開発上のメリットを伺いました。

(株式会社エイリム 取締役開発部長 杉山浩氏、開発エンジニア 青木仁志氏、デザイナー傑怪老氏)

「初」ずくめの開発でも、大きな苦労はなかったというお三方。Unityは本作において、どのような役割を果たしたのでしょうか。

目次

「選択肢は、Unityしかないと思っていた」

──『Voice of Cards ドラゴンの島』の開発は、いかにして始まったのでしょうか?

杉山:きっかけは、発売元であるスクウェア・エニックスさんから企画書をいただいたことです。「カードで全てを表現する」というコンセプトと、複数プラットフォームの展開を考えていることが書かれていました。

そうして立ち上がったプロジェクトでは、モック制作からはじめました。本作のクリエイティブディレクターを務められたヨコオタロウさんの想像している世界と、私たちの認識をすり合わせるためにも必要だったのです。微調整を重ねながら、本格的な開発に進んでいきました。

──今回の開発からUnityを導入して下さったと聞いています。なぜでしょう?

杉山:マルチプラットフォームで展開することが決まっていたので、それほど選択肢は多くありませんでした。社としてUnityを使ってリリースした実績はありませんでしたが、機能面、アップデートの頻度、豊富な実績、情報量の多さなどから総合的に判断して、採用しました。

──導入に際して、苦労などはありませんでしたか?

杉山:私はモックの制作段階で、初めてUnityを利用したのですが、それまでにも基礎研究のようなことはしていたので、大きな苦労はありませんでした。ただ、イチからコードを書いてゲームを作っていくのが当たり前だったので、「どう作るのが正しいのだろう」と悩むことはありましたね。

たとえば、入門書には「GameObjectにスクリプトをつけて動かすのが基本」と書いてあったのですが、大規模なプロジェクトになると調整やメンテナンスが難しくなるのでは、と。

最終的には、Unityに依存しすぎないつくりに落ち着きました。MonoBehaviourには最小限に頼りながら、細かなところをベースから書いていくといった、昔ながらのゲームプログラムっぽいつくりに落ち着きました。そこからは迷いも消えて、かなり作りやすくなったかなと思います。

青木:プログラマーとしては、個人的には特に苦労はありませんでした。むしろ、これまで利用していたゲームエンジンよりも格段に使いやすかったと感じています。直感的に操作できる点であったり、杉山が言ったように日本語の情報が得やすい点であったり、さまざまな点において大きく違いましたね。

複数のプラットフォームに展開できることが、最大の魅力

──実際に利用してみて感じたメリットがあれば教えてください。

重複してしまいますが、やはり日本語の情報が多い点は、Unityを使う大きなメリットですよね。英語のフォーラムしかないとなると、困ったときにどうすべきかが判断しづらく、開発の効率が落ちてしまう。Unityの場合、たくさんのユーザーがヒントになる情報や、細かなTipsをネット上にあげてくれているので、かなりスムーズに開発が進められました。

青木:全体として使い勝手はよかったのですが、中でもPackage Managerは特にお気に入り機能です。これを利用することで、カスタムパッケージがつくれるようになり、スムーズにSDKをつくり込めるようになった。「そうそう、SDKはこうやってつくりたいんだよ」という感じでしたね(笑)。他にも便利な機能はたくさんあるのですが、特にPackage Managerには助けられました。

それに、プラットフォーム対応に要するリソースを大幅に削減できたことも大きなメリットです。従来のエンジンでは、一つのプラットフォームに対応するためにも複数のエンジニアが必要だった。しかし、今回の開発においては、ほとんど僕一人でプラットフォーム対応の関連作業ができました。

Unityが提供しているSDKなどを使うことによって、簡単にそれぞれのプラットフォームでROMがつくれるので、そこは改めてすごいなと。

杉山:ワンソースで、Nintendo Switch™、PlayStation®4、Steam®に展開できるなんて「Unity以前の開発」では成し得なかったこと。これだけでもUnityを利用するメリットがあるほどだと思います。

アセットが充実しているのも大きな魅力ですよね。すでに用意されているものが多いので、自分たちの手を動かさずに済む。だから、「コードを書くこと」ではなく「よりゲームを面白くすること」に一層注力できるようになる。

──Unityの導入によって生じた懸念や新たな課題はなかったのでしょうか?

杉山:基本的にはありませんが、Unityだけに依存してもいけないとも思っています。

Unityを使うことは、ゲームづくりの裾野が広がるという意味においては歓迎すべきことではありますが、ある意味ではプログラムの根幹がわかっていなくても、なんとなくゲームが作れてしまう。

そういった若いエンジニアたちの教育環境をどのように整えるか、といったことも、これからの課題になるでしょう。他のエンジンなども使いながら試していかなければならないと思っています。

ゲームの「新たなフォーマット」を生み出す

──マルチプラットフォーム対応に関するお話がありましたが、『Voice of Cards ドラゴンの島』は、エイリムにとって初のPC・コンソール向けタイトルになりました。また、マップやキャラクター、武器に至るまですべての要素がカードで表現されているという意味でも、これまでとは勝手が違う部分もあったのではないかと想像するのですが。

傑:グラフィックスは配信する全てのデバイスで動くことを想定してつくっています。複数のプラットフォームに展開するゲームだとはいえ、いちデザイナーとしてはそこまで苦労せずに、つくり上げられたと思っています。

システムとしては新しいものの、カードのアニメーションはすべてUnity上で制作しており、実際はかなり楽に進めることができました。むしろ、時間を節約できましたね.。

──先ほど杉山さんから、アセットが豊富な点がUnityの魅力の一つというお話がありましたが、具体的に利用したものは?

傑:UIのアセットはほぼ使っておらず、PlaymakerAmplify Shader Editorをかなり活用していましたね。

──プログラムの観点では、初のPC・コンソール向けタイトルの開発という面において苦労はありませんでしたか?

青木:基本的にはUnityの標準機能でカバーできたので、ほとんど苦労はなかったのですが、入力周りが少し大変でしたね。Unityが新しいインプットシステムに移行しているタイミングで導入したので、以前のインプットシステムを利用しなければならなかった。

現行のものであれば、さらに快適に使えていたと思うのですが、タイミングの問題で少しだけ苦労がありました。とはいえ、エイリムとしては初の試みとはいえ、概ね問題なく開発を進めることができましたね。

──ゲームシステムに特色があると感じていますが、このフォーマットはどのような思想で設計されたのでしょうか?

杉山:基本のシステムを踏襲しつつ、グラフィックなどのデータを新たに制作することで、次なるシリーズタイトルとして展開できるように設計しました。

現時点で既に、『ドラゴンの島』に続いて2022年2月には第2弾の『できそこないの巫女』を発売しました。今後の展開は未定ですが、かなり汎用性の高いゲームシステムをつくり上げることができたので、うまく活かしていきたいですね。

個人として、会社としてUnityを探求し続ける

──改めて開発を振り返っていただき、初の本格導入となったUnityの満足度を教えていただければと思います。

傑:点数を付けるならば、80点といったところでしょうか。細かな苦労はありましたが、Unityのおかげで最終的に満足できる内容になったと思うので。今後は社としての方針にもよりますが、個人的にはUnityを使い続けたいと思っています。もっと探求してみたいので。

──なぜ、そう思われたのでしょう?

傑:プログラミングに対する深い知見がなくてもいじれそうな気がしたからです。もちろん、知った上で触った方が効果的に利用できるのだとは思いますが、そうでなくても用意されているアセットなどを利用すれば、一定水準のゲームがつくれるのではないかと感じました。

これまでエンジニアがいなければできなかったものも、Unityがあればできるのではないかと思っていますし、いちデザイナーでも、よりゲームづくりの楽しさが味わえるのではないかと。仕事ではなくても、趣味として探求してみたいという気持ちですね。

もちろん、デザイナーとしても、さらにUnityを探求してみたいと思っています。たとえば、Visual Effect Graph(VFX Graph)を利用してみたいですね。この機能を使えば、よりリッチな表現ができるはず。ぜひチャレンジしたいです。

──青木さんはいかがですか?

青木:私も非常に満足しているので、次回作のゲームエンジンを決めていいと言われたら、迷わずUnityを選ぶでしょう。やはり、これまでに利用してきたゲームエンジンとは使いやすさが格段に違いましたから。

次回作では、ユニバーサルレンダーパイプラインを本格的に利用したいですね。この機能を使えば、特にスマホゲームにおいて表現の幅を広げられると期待しています。

そして、いつかは一人でゲームをつくってみたいと思っているんです。今回Unityを使ってみて、一人でもある程度のクオリティのゲームがつくれるのではないかと感じたんですよね。どのような形になるか分かりませんが、さらにUnityを使いこなして、いずれはつくり上げたいです。

──杉山さんにも、ぜひ振り返りと今後の展望を伺えますでしょうか。

杉山:『Voice of Cards ドラゴンの島』は、Unityなしでは完成させられなかったと言ってよいでしょう。Unityもどんどんバージョンアップしていくと思います。それに合わせて、私たちとしても何ができるのかを考えて、新たなゲームを生み出し続けたいですね。

現時点でやってみたいと思っているのは、マルチプレイ対応のゲームを開発すること。UnityにNetcode for GameObjectsが実装されたので、サーバーサイドでUnityを利用してみるなど、いろいろ試したいです。

あと、エイリムはもともと2Dの表現に強みを持つ会社。その強みを活かした2Dゲームの開発にも取り組みたいですね。Unityを使えば新たな表現ができるのではないかと思っていますし、会社としてもどんどんチャレンジしていきたいですね。

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