札幌市内に拠点を構える専門学校札幌デザイナー学院は、ゲーム/3DCG専攻やイラスト・キャラクター専攻のほか、ファッション専攻があることでも名を知られている。ファッション専攻では、パターン、縫製等の基本を学ぶだけでなく、ファッションのデジタル世界での需要の高まりにより、3DCGファッションデザイン教育にも取り組んでいる。現在、VR・AR、メタバースでの活動が一般化することで、アバター用のファッションのニーズが大きく増加している。また、3DCGモデリストなど新たな職種も誕生していることで、学生が3DCGを学ぶことも業界的に求められている。
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今回は、STYLYとの協業のもと、ファッション専攻の学生がUnityを使い、自らデザインした衣服とその展示空間を魅せるというXRコンテンツを制作した。通常のファッションショーでは観客がデザインしたファッションを360度見ることは難しいが、XRコンテンツではそれが可能となる。また、デザイナー自身が表現したい世界観でランウェイを行うことができる。学生たちにとっても初めての挑戦となったこの取組では、様々な世界観のショーが作られた。
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授業を担当されている東出圭介先生は、これまでに有名アパレルで勤務し、現在は講師として本学院の講師を努めている。ファッション専攻では、Unityはどのように使われているのだろうか。
「ファッション専攻では3DCGを利用した作品を作る学生が非常に増えてきたという風に感じています。Unityを使用することによって、例えば仮想空間の中に自分の作品を展示したり、仮想空間の中でのファッションショーを行ったりなど、より多くの見せ方ができるということを学生は学んでいるというふうに感じています」
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Unityを触ったことのない学生への指導にも工夫を凝らしている。
「初めは難しいと感じる学生がやはり多いのは事実なんですけれども、本校としてはまず楽しいと思ってもらえるような部分から始めてもらっています。例えばUnityを教える上で一番最初にやるのは、物理演算を使ってピタゴラ装置を作って、楽しいと思ってもらうことです」。
まず学生に成功体験を与えてから指導していく。
「その後は自分の作品を展示するような展示空間をアセットを使って簡単に作ってもらいます。そういった学びを繰り返すことによって、もっとこういう風に表現してみたい、こういう風にするにはどうすればいいんですかというような質問が学生から出てくるようになるので、自ら進んで学べるようになっていくという部分を育てていきます」。
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ファッション業界がデジタルに近づいている
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今回のプロジェクトを行った理由を東出先生にお伺いした。
「ファッション業界がゲーム業界に近づいてきているという風に非常に今強く感じています。例えばメタバース空間にファッションブランドがお店を構えたりということも起こっています。そういった意味では今後ファッションの業界に進む学生もそういった3DCGの知識ですとかそういったものも必要になって来ますね」。
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今回の授業でUnityの指導を行ったSTYLYのyosh先生も、ファッションとデジタルの関係についてこう語る。
「今回、学生さんたちが取り組まれた作品の数々なんですけれども、洋服も3Dモデルも細かい世界観のこだわりも、相当クオリティ高く作り込まれてるな、という印象でした。AR作品を皆さん作られていましたが、『ARにした時に見る人にどういう体験をしてもらえるか?』という体験設計も非常に考えられていましたね。ただファッションを映像で見せるのではなく、空間的な広がりもよく考えられていました」。
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yosh先生はXRとファッションの相性についてもこう語る。
「ファッションって、シルエットがあって、現実に広がりのあるものなんですよ。そこを立体的に見せていくっていう意味では、XRていうのは非常に相性が良いものなんです。なので今回の取り組みっていうのが、すごく自分もワクワクするものでした」。
実際にファッションを販売するシーンも、XRによって変わってきている。
「今は、伝統的なファッションデザインの在り方自体が、3Dアパレルデザインのソフトによって、そもそもそのワークフローから変革しだしてきている過渡期です。そこにさらにXRというものが取り込まれることによって、そのデザイナーさんの世界観だったり、お客様への体験の届け方みたいなところが、根本的に変わってくるのかなと思っているんです」。
これまでとは違った、顧客への体験の届け方が重要になってくるという。
「XRなどによって特別な体験を得ることにより、買い物という行為の満足度が上がることもあると思います。そして、よりそのブランドや洋服に対しての愛着が湧いたり、思い入れが強くなって、ブランドのファンになってもらうということがもっともっと出来ていくのではないか、と思い、非常に可能性を感じています」。
XRによって、空間や材料に捕らわれないクリエイティブを
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学生の佐々木 聖龍さんは今回、ハロウィンをテーマにしたコスチュームを製作した。ARでファッションを表現してみた感想は?
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「実際に、自分でARを使ってみたのは初めてでした。やってみると、教室だったり野外にスマホ越しで、服が3Dで立体的に出ているのを見て、これを使えば、今後のファッション業界だったり、服を実際に売って行く時に、 空間や材料に捕らわれずに、もっと楽しい未来が待ってるんじゃないか?という可能性にワクワクしました」
初めてのAR作品制作に挑戦してみて、楽しかったところ、特に力を入れたところは?
「楽しかったのは、本物だと難しい表現も、バーチャルなら気軽にいくらでも試せたことですね。また、特に力を入れたことは、ARの表現の時に、紅葉の葉っぱを散らして視線誘導したりと、アセットを使って季節や温度など、作品の世界観を表現するのに力を入れました」
ファッションのデザインだけでなく、空間までもデザインしてデザイナーの考える世界観を見る人にも体験してもらう。アナログとデジタルの相乗効果によって、大きな広がりを魅せる分野になっている。
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