さいたま市大宮区でプログラマーを養成する学校として創立から40年近い歴史を持つ、埼玉コンピュータ&医療事務専門学校。ここでは、情報テクノロジー学科の『ゲームプログラマーコース』、クリエイター科『ゲームデザイナーコース』にて2014年頃からUnity教育が行われている。一体どのような教育方法が取られているのか、中山幸市先生と松島周平先生に話を聞いた。
コンテンツ制作を『楽しい、面白い』と感じて欲しい
なぜUnityを同校に導入したのか、それは中山先生自身がマルチメディア・コンテンツを作るクリエイターという経験からだった。
「人間には潜在的に、人を驚かせたいとか、楽しんでもらいたい、明るくなってもらいたいという気持ちがあると思うんです。でも、学生にゲームを作ってもらうには、まず『面白さ』を伝えなきゃいけない。自分が『作るって楽しい』と思わないと、学びたいとは思わないですから。クリエイターだった自分の経験からも、「やりたい」という気持ちを潰さないようにしないと人材は育たない。そのためには、なるべく学生に負担なく形に出来るツールを取り入れたかった。とにかく作ってもらうことを『楽しい、面白い』と思ってもらうために、学生のユーザビリティを考えたゲームエンジンにこだわった結果、Unityを導入しました」(中山先生)
その目論見は成功したという。
「ゲームエンジンを使えば、お遊びのような作品ではなくて、実際に市販レベルとして動くゲームが作れる。そこは本当に嬉しかったです。だからもう、飛びついたんですよ。本当に思ったとおりのものだったし、エンジンを使うことで、ゲームが作れる楽しさを味わえるという、そこが良かったですね」(中山先生)
Unityを学んでおくことで柔軟な思考が身につく
またUnityを導入したのは、将来的にゲームだけでなくさらに幅広い範囲のクリエイティビティに携わるスキルが身につくことから。
「最初はゲームのデザイナーになりたいと思って入学してきた学生も、ツールに触っているうちにプログラミング自体が面白くなってしまって、プログラマとして就職する学生もいます。また、「メディア芸術祭」や商業施設でUnityでできているインスタレーションを見ると、「これもUnityでできているんだ!どうやったら作れるんだろう!」と、「自分もこれが作れるかもしれない」という可能性を感じてくれる」(松島先生)
学生が「自分もクリエイターになれる」というモチベーションを持ってくれる。それはUntiyの使いやすさが学生の背中を押すことになる。
「Unityはゲームだけではなく、いろいろな物が作れるので、ゴールはゲームだけじゃないんです。メディアアートだったり、展示だったり、教育だったり。だから本校では「Unityでゲームを作りなさい」ではなくて、Unityというツールがあることで、色々なことの幅が広がっていくということを体験してもらいたい。その経験が、社会人になった時にも、柔軟な思考で仕事ができる人材育成につながると思っています」(松島先生)
Unityを使うことをゴールとしてではなく、「Unityを使って何ができるか」を考える人材を育成するーーそれがゴールだ。
「Unityに限りませんが、こうしたプログラミング教育をすることで、学生がどんな産業に入っても使える「何かを作る道具」を手に入れてほしいんです。鉛筆って、何にでもなりますよね。絵も描ければ字も書けるし、転してサイコロ代わりにもなる。社会に出たときに、さらにレベルの高い仕事をする時の一助になればいいなとは教えています」(松島先生)
2年間の授業で教えられること
埼玉コンピュータ & 医療事務専門学校は2年制の専門学校。教えれられる時間には限りがある。そのために、カリキュラムでは様々な工夫を行なっている。
「まずは基礎固めとして、Unityを通してゲームプログラミングの勉強は面白いんだ、というモチベーション維持を感じてもらいます。それを2年間経験すると、何年か後に新しい技術を勉強するときに生きてくると思うんです。ゲームプログラマーとしての卒業後の現実は厳しいですよ。2年間でゲームクリエイターになれる、そんな簡単な世界ではない。なので学生たちには、自分の現実的な実力を見極めながらゲーム制作を行なってもらいます。」(中山先生)
「学生には様々な表現方法を教えています。Unityの他にもMayaでのモデリングやprocessingでのビジュアライゼーションも行なったり。専門学校の利点は、敷居が低いところだと思うんです。漠然とした夢を持って入学してきた学生に、いろいろな武器を持たせて、社会で活躍してほしい。学生のレベルもバラバラなわけですから、教員が教科書通りに教えようとしても通用しないんです。だから最初のきっかけをこちらが教えて、学生がやる気になったところを伸ばしてあげる。10人いたら10通りのことをしなければならない。大規模な学校ではできないことができるのがうちの学校の強みだと思っています」(松島先生)
テクノロジーの進化に適応できる学生を育成する
テクノロジーの進化は早い。デジタルクリエイティブの世界では、常に進化し続けるテクノロジーに合わせて自分自身をアップデートしていかなければならないという厳しさがある。
「今、教えていることでも、3年後には古臭くなってしまう可能性もあるんです。そういうことに直面した時に「自分のスキルは古臭いから駄目だ」じゃなくて、「こうなったらどうしたらいいんだろう。そういえば別の方法もあったはず。そっちのほうから攻めてみよう!」と、自分で考えられる人材になってほしい。失敗を恐れてほしくないし、2度失敗したら、3度目は失敗しなければいいと。成功するまでチャレンジ。その力は教科書を開いて進めるだけの授業では身につかない。何年経ってもデジタル業界で活躍できる力を身に着けてほしい。そう思って、私は授業をしています」(松島先生)