京都府・立命館大学(映像学部)/「面白い」とは何なのか? 創造の根幹から学生に考えさせるUnity教育を

学生総数約32,200人のマンモス校、立命館大学。法学部から情報理工学部、スポーツ健康科学部など多岐に渡る分野の16学部があり、多様な教育を行なっている。その中でも映像学部・情報理工学部にて、Unity教育が行なわれており、総合大学でどのようにUnity教育を行なっているのか、映像学部の奥出成希教授、斎藤進也准教授に話を聞いた。

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映像学部でUnityを教えるということ

校内での撮影

「立命館では、90年代後半からデジタル教育を行なっています。もちろん映像学部なのでカメラで撮影する「リニア映像」の教育とともに、インタラクティブなゲームやCGも同じ「映像」というくくりでカリキュラムに取り入れているんです」(斎藤先生)

映像学部には「ゲーム・エンターテインメントゾーン」というゲームプログラミング実習などを教えるゾーンがある。Unityがカリキュラムに導入されたのは2015年のことだが、その以前から学生個人では既にUnityを使い始めていたという。

学生作品

「卒業制作にUnityを使っている学生も既にいたんです。それまではOpenGLやDirectXでプログラムを書かなくてはいけなかったのに、Unityだと一気にリッチな物が出来る。みんな驚いていたら、「これ、簡単に作れるんですよ」って言われまして」(斎藤先生)

その後奥出先生が赴任し、本格的にUnity教育が始まった。

「学生には、1回生はProcessingを使ってプログラミングの基礎の部分を積み上げてもらいます。そこからUnityの使い方と、C#の勉強を経て、チーム制作が始まり、ゼミに入るという順番ですね」(奥出先生)

映像に限らず、メディアアートやCG・VRに興味のある学生からもUnityは支持されている。

「Unityはモーショングラフィックスの機能もかなり強化されていますから。メディアアート系になりますと、パソコンと機械を接続して出力する部分にUnityを使ったり、CGを作って、そのアウトプットに使いたいという要望もあります」(奥出先生)

斎藤先生
奥出先生

独自の思考で京都アミューズメントアワードを受賞

総合大学でのUnity教育は、現場での即戦力養成という側面もあるが、「面白いとは何なのか」を考えるという創作の根っこの部分から学生たちを指導していくという側面が強い。

「我々が良く言うのは、『面白い遊びを作りましょう』ということなんです。「既存のゲームに囚われてはいけない」ともよく言っています。学生はもちろんゲームが好きですから、どうしても既存のゲームに寄ったアイデアを作ってしまうんですが、そこから離れられるとものすごく独自性のあるものが出てくるんですね。例えば2018年度に映像学部生が作成した『マンパワーエレベーター』という作品は、モニターを縦置きにして、その中にUnityで作ったゲームが入っています。ビルにやって来たお客さんを行きたい階に届けるというゲームなんですが、モニター横にエレベーターのミニチュアを手作りして、物理的に紐で引っ張って、お客さんを運びます。Arduinoを使って、Unityと通信して、ゲームの中に取り込むという仕掛けですね」(奥出先生)

『マンパワーエレベーター』

そうした「既存の枠に囚われない」思考を磨いていくことで独創的な作品が生まれ、2018年に映像研究科生が作成した『回遊-KAIYU』は40個ほどのコントローラーを一つのハードにつないで、40人でアクションゲームのキャラクターを動かすというユニークな作品で、「京都デジタルアミューズメントアワード」の大賞(京都府知事賞)を受賞した。

「典型的なゲーム以外にも、ゲームのメカニクスや、Unityのようなゲームエンジンなどのゲーム開発のノウハウを生かして、新しいエンターテインメントを作っていこうという観点なんです。学生には、個性的な作品にはどういう工夫があるのかをリサーチするように指導しています。ありきたりのものではないもので、かつ、魅力があるというのはどういうことなのかと、そういう観点で指導していますね」(斎藤先生)

創造の芽が確実に生まれている。

進路は多様!

校内の施設
校内の施設

立命館大学映像学部でユニークなのは、進路が多様で、学生が卒業後に専門職をキャリアとしたり、映像業界に加えて映像業界での学びを活かした一般企業にも進出したりしていることだ。

「学生の進路でいえば、CM系の制作会社に就職するパターンもあれば、本学部のコンセプトがアート・ビジネス・テクノロジーなので、ゲーム会社もありつつ、ビジネス系で一般の企業に行くこともあったり。中には、自身で起業する学生もいたりと、特徴的なのは進路が多様なことですね」(斎藤先生)

学生に自立できるほどの力量が身についているからこそできる、珍しいケースではないだろうか。また、卒業制作・研究も、共同制作として複数名やチーム制で行う場合もある。大学では珍しいケースだ。

「普通は一人で一つの成果を出すのがスタンダードですが、映像学部ではグループで一つの作品を作ったうえで、それぞれが解説論文を書くこともあります」(斎藤先生)

Unityを使うメリット

Unityを教育に使うメリットは、学生たちがクリエイティビティに集中出来る点だと言う。

「今はUnityを使用するようになったことで、間違いなく「面白さ」を追求することに労力を割けるようになりました。以前はプログラミングのコマンドだけで脳みそがいっぱいになってしまうところをUnityがやってくれるので、クオリティの追求が出来るんですよ」(斎藤先生)

「そうなんですよ。そこから一歩踏み込んで、ハードウェアの制作まで手が出せるようになるので、底上げができるんです。映像学部は文理芸が融合した学部なので、Unityの基礎知識を教えて、そこから「何が作れる?」と考えてもらう。Unityを使って、学生が作りたい・表現したいものを実現したり、成果物の質を上げるのに、とても役に立ってくれています」(奥出先生)

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