大阪・大阪工業大学/ Unityを使ったライブ配信でオンライン授業に革命を起こす

大阪工業大学 ネットワークデザイン学科 デジタル教育・生命情報研究室の矢野浩二朗准教授。もともと千葉大学医学部を卒業後、イギリスのマンチェスター大学の修士課程に進み、リバプール大学で博士号を取り、ケンブリッジ大学では博士研究員・教員として活躍してきた経歴を持っており、2012年からUnityを使いVR・教育・医療のテーマで様々な作品を生み出し、大きな反響を呼んでいる教育者だ。

矢野浩二朗准教授

そんな矢野先生が、コロナ渦でオンライン授業が推し進められる中、Unityを使い、自らをアバターとして登場させるバーチャル授業というユニークな試みを行った。その結果、学生たちのオンライン授業に対する満足度が非常に高くなったという。

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バーチャル空間からの授業で学生の満足度を高める

授業の様子

「通常オンライン授業と言って思い浮かべるのは、Zoom等を使って、スライドに声をあてるといった形ですよね。私が2020年からオンライン授業で行った取り組みは、自分をバーチャル空間のアバターとして出現させて、そのバーチャル空間の中から授業を配信するという方法です。Unityを使って開発した、オリジナルアプリケーションで実現させました。そうしたら、通常のオンライン授業よりも、はるかに高いエンゲージメントで学生さんが学習してくれたんです」(矢野)

バーチャル空間の中から授業を行うことで、学生たちのモチベーションも向上した。

「かなり楽しんでもらえたようです。分かりやすい、という意見を多くもらいました。単純にスライドがあって声を聞いているだけだと、スライドのどこに注目していいのか、学生側がなかなか分からない。常に音声に集中していなければならない。これが、かなり疲れるらしいんです。でも、私がアバターで出現して、画面の中で『ここが今大事なポイントです』と話すことでそういうことか、とわかる。私の身振りや手振り、あとは顔の向き、そういったもので表現することで、非常に分かりやすく授業を聞きやすくなるということです。まるで本当に対面の授業を受けているようだったと感想を言ってくれました」(矢野)

アバターを入れることによって、学生の学習意欲が向上する。この授業の実現に欠かせないのがUnityだった。

「Unityがなかったら、実現できていなかったと思います。2020年に使ったのはライブ配信も可能なアプリケーションですが、その前からUnityを使って録画可能なアバターを使った動画アプリケーションを既に作っていました。その録画動画はコロナ以前にも使っていたんですが、コロナ渦になってオンライン授業に本格的に移行することになり、ライブ対応をさせようということで、ライブに対応したアプリを新しく別に開発しました」

あらかじめ録画された動画よりも、ライブで行う授業の方が学生からの反応も良いという。

「録画もすごく役に立ちますが、やっぱりライブだと、『真面目に聞かなきゃいけない』という気持ちに学生がなってくれるみたいです(笑)。ライブであれば、僕がVR空間から学生に声を掛けて「今日出席している◯◯くん、チャットの方に答えを書いてくれる?」とインタラクティブなコミュニケーションができます。そういったことがあり得るライブだと緊張感もあって面白いというのが学生の反応ですね。また、VR空間内でPCの画面も表示していて、Google Meetでチャット欄にコメントがあったらそれに私がリアルタイムでリアクションができるので、やっぱりライブというのはすごく大事なんですよね」

現在は対面授業に戻っているが、学生が録画された動画をいつでも閲覧して復習できるようにしているという。アバターでの授業という工夫をすることで、授業へのエンゲージメントを高めるクリエイティブなアイデアを実現できるのは矢野先生ならではの発想と実力あってこそだ。

学生たちがUnityを学んで手に入れたもの

Unityを学ぶことで、学生たちはどんな結果を残しているのだろうか。矢野先生はUnityを学ぶメリットについてこう語る。

「​​Unityってすごく特殊なんです。ゲームを作るためにも使えるし、C#という採用している言語は業務システムの開発にも使われます。だから、Unityというものを一つ学ぶことによって、ゲームの開発、3DCG、コンテンツの開発、あとは業務システムで使われるプログラミング言語の学習など、さまざまな形で利用できるというのが大きいですね」

学生にも、卒業の進路に役立つ授業が出来るようになったという。

「Unity導入以前は、学生から『仕事ではJavaとかC#など、そういう言語を使うのに、どうして卒研で違う言語を使わなければいけないのか?』と聞かれた時に、教員側もすごく困りました。それが、Unityを使うことによって、『今作っている卒研のアプリケーションで勉強したC#の基礎的なことは、仕事が始まったらこんなふうに使えるんだよ』と言えるようになった」

様々なキャリアを目指す学生に合わせた指導ができるということも大きいという。

「学校で勉強していることと仕事として勉強することのつながりを作ることがやりやすくなったのは大きいです。システムエンジニアの他に、ゲーム会社に就職する学生さんにはゲームを作ることに集中してもらえますし、さまざまなキャリアパスに対してUnityというものがはまるというか利用できるのが大きなメリットです。Unity導入後は、非常に学生さんの指導がしやすくなりました」。

矢野先生のゼミでは、配属された学生全員にUnityを教えているという。「ランダムに配属される学生もいますが、実践的な学習ができるということで学生のアンケートの評価も高くなっています。基礎力から身に付けてほしいということで、プログラミング初心者にはそれこそまずセーブの概念を教えることから始めているんです。Visual StudioでC#を書くって、シンプルですが難しいことです。それでも、目先の結果を出すというよりも、やっぱり将来の役に立つような技術を身に付けて欲しいので、とにかくコードを書いてもらうことにこだわって教えています。やっぱり大学生は卒業後、社会人という道に繋がっているので、社会に出たときに要求されるスキルに沿った形で教えるのが大事かなと思っています」。

矢野先生のVR作品

矢野先生が研究するVRも、大学教育において新しい戦力となるという。矢野先生から見たVRの魅力とは何だろうか。

「VRの魅力は、今までのアプリケーションとは全く違った経験を提供できるというのが大きいですね。画面の外から見るのではなく、没入型の体験を提供するアプリケーションを作ることができるのはやっぱり面白いです」

教育においても、VRならではの『没入』によって、今までとは全く違う学習体験を提供できるのが強みだという。

「今の学習の問題点というのは、学習として勉強したことと社会で実際にやらなければいけないことのギャップがどうしても大きいことです。学校で勉強したことが社会では役に立たないという批判がありますが、VRだったら非常にリアルに近い体験を提供することができる。それで、実生活に必要な技術や知識、経験を仮想的な形で与えることができるわけですよね。その点で、バーチャルの授業によって今までの教育の問題点であったリアルに即していないという部分の欠点を補うことができるんじゃないかというわけです」

今後は、バーチャル授業の配信をするだけでなく、学生自身がバーチャル空間に入って学習する授業も行っていきたいという。

「受動的な学習から、能動的な学習にシフトしていきたいなと。もう少しヘッドマウントディスプレイとかが安価になって手軽になってきたら、学生がバーチャル空間に僕と一緒に入って授業を行うなど、そういったことが将来的には実現するといいなと思っています」。

現在矢野研究室にはヘッドマウントディスプレイが50台以上揃っている。それらの予算は、矢野先生が科研費などの外部予算を申請することで賄っているという。

「日本学術振興会に申請して、普通に他の一般的な研究と全く同じ方法で科研費を取っています。教育工学という分野でいつも申請しておりまして、いわゆるICTを使った教育分野で申請書を書いています」。

Unityを入り口に、学生に考える力をつけさせる

矢野研究室では、まずUnityを使ってアプリケーションを作ることを学び、それから学生それぞれが研究テーマを自身で選んでいくという。

「まずUnityを使ってアプリケーションを作るということを最初に勉強してもらって、そこからVRに行くか、それともゲームを作るかの選択は学生に委ねています。Unityを通して、アプリを作るということを実践する入り口にしているんです」

また、卒業研究を行う三年生には、VRと教育というお題を与えて、ひたすら論文を読むことを奨めている。

「三年生のゼミは、論文を読み、Unityを学び、あとは就活の指導という三本柱でやっています。論文を読んでもらうのは、研究のやり方が分からないと、自分の研究テーマも決められないからです。そこを把握したうえで、自分は何が得意か、何に関心があるかということを考えて卒業研究のテーマを決めます。卒業生の例では、バーチャル・シンガーが大好きな学生がいて、アバターで卒論から修士論文まで書き、現在はVR会社で活躍している学生もいます」

卒論のテーマを自分で決めるということには、また違う狙いもある。

「自分が考えたテーマで自分が作りたいものを作れる機会というのは、人生で見ると実は少ないんです。社会に出たら依頼されたものを作ることになるので、せめて大学にいる時ぐらいは自分の発想に基づいて何かを作ってもいいんじゃないかと。今はそういったものをUnityで簡単に作れるようになっているわけだから、やっぱりそういう機会を生かさないともったいないんじゃないかと思います」

大工大は実践的な授業が魅力

矢野先生のゼミの学生たちに話を聞いた。基礎ゼミでは、違う学科の学生と交流できるようにという意図を込めて、各学科から学生が集まっている。

「もともとプログラムが好きで工業高校で学んでいて、自分でできる範囲を広げたいということで大工大を志望しました。ゲームをプレイするのが好きなので、Unityを使うと自分がプレイしているようなゲームを作れるのが楽しいです。いずれはUnityでゲームの他にもいろいろなものを作りたいと思っています」(情報科学部データサイエンス学科1年 オザキオトタダ)

「ずっとUnityをやってみたいと思っていたので、矢野先生のゼミに入れて嬉しいです。プログラミングはやっていてすごく楽しいです。矢野先生はメールなどでも質問するとすぐに答えが返ってくるので、いつもパソコンの前にいるんじゃないかと思っています(笑)」(情報システム学科 ウエダモエ)

「テレビなどのニュースで人工知能について見た時に、プログラマってかっこいいな、と思ったんです。それで情報系に興味を持って入学しました。自分で書いたプログラムが動いた時の感激はひとしおです」(情報知能学科 キザワリサ)

「高校生の時からVRの勉強をしたくて大工大を選びました。Unityで地元の彦根市にちなんだ作品を作っています。VRの中で彦根かるたという彦根の名物を再現しました。かるたを写真でスキャンして、Blenderでかるたを54枚作ったんです。いずれはバーチャルでかるた大会が出来ればいいなと思っています」(ネットワークデザイン学科 ニシムラマサミチ)

彦根かるた

「大工大が良いなと思うのは、先生方が社会経験がある上で教員になられているので、実際に社会で働いた経験が聞けるし、実践的な講義が行われている点です。自分では、ダンスが小学校で必修になりましたが、教員が教えるのが難しいという問題があるのを解決したくて、Unityで視覚的にリズムを表現して、知識がなくてもリズムが取れるというアプリを作りました」(大学院情報科学研究科情報科学専攻 サカネケンタ)

ダンスアプリ

学生たちがそれぞれ自発的な学習を行っているのが矢野先生のゼミの特徴だ。

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