1958年の創立以来、約2万人以上の卒業生を社会に送り出してきた神戸電子専門学校。高い技術力をもとに、IT・ゲームを始めとする各業界で卒業生が活躍している。4年制のゲーム開発研究学科、3年制のゲームエンジニア学科などでUnityが使われているという。
ネイティブだけでなくUnityを使って効率的な開発を学ぶ
森山弘樹先生は演習「XRプログラミング」という教科にて、Unityを使ってMeta Quest 2のVRプログラムの開発を行っている。
「私は1987年にPC9801を使ってポリゴン美少女モデルを作りまして、それを歩かせるアニメーションを作ったのが日本第1号のポリゴン美少女モデルであるというふうに言われているという経歴を持っております。Unityを触り始めたのは2011年ぐらいの頃ですね。個人的にUnity等の3DCGのゲームキャラクターを直接3Dプリンターに出力するための変換プログラムをずっとUnityで開発し続けていて、現時点ではそろそろVRChatから直接出力するというところの技術的な目処を立てつつあります」(森山)
神戸電子専門学校がUnityを導入した理由にはこのような背景があった。
「弊校では、もともとネイティブでの開発だけを教えていたのですが、卒業後ゲームエンジンを使って開発する機会も増えてきているため、基礎を学んだうえで、最終学年ではゲームエンジンの使い方も教えている。開発効率やコンテンツのボリュームを増やせる、シナリオをさらにいろいろ複雑で面白いものにできる、UIを作りながらチューニングしていけるという特徴を考えると、やっぱりUnityを使った開発というのが一番効率がいいのではないかと思っています」(森山)
上善雄人先生は、最終学年のUnity教育を担当している。
「Unityを使うと、物理と数学に弱い学生でもちゃんとゲームとして成立するものが作れるのが驚きですね。自分の思ったことを形にするのが長けている学生たちが優秀なのかなと思っています」(上善)
「私は3DCGプログラムやゲームを作るための道具としての数学を理解できていたというところが非常にあります。実際のところ私自身も数学が得意かと言われると、どっちかというと得意じゃないというふうになっていたんですが、Unityに代表されるようにビジュアルでわかるゲームの開発環境を見ると、数学の計算の結果というのを目に見えた形で体感することができるんです。これはすごく理解の助けになるんですね。方程式を立てるという意味での助けにはならないかもしれないけれども、直接的なキャラクターが動くという感動体験から入って、そこからひも解いていける。ある意味、そういった数学教育の一部としてUnityを採用するのも良いと思います」(森山)
また、Unityを導入することによって学生たちが作る作品も変わったという。
「Unity以前は、ゲームを作るにはロジックをひたすら組み上げる、半ばゲームエンジンを半分組み立てるような工程が必要だったんですけれども、Unityという盤石のゲームエンジンができたおかげで、ゲーム本来の重要な部分であるシナリオや面白さといった、文系のセンスが問われるところに時間をかけられる。すなわち、ゲームが深まるような開発ができるというところのメリットはすごく大きいと思います。みんなUnityを使ったら金太郎飴みたいに似たゲームが出来るんじゃないか?と思われがちですが、実は違っていて。皆でシューティングゲームを作ろう、となった時でも、じゃあこういうアイデアを入れよう、と、独自の発想を盛り込みやすいというメリットがあるので、そういった面を伸ばしていきたいです」(森山)
初めて触ったUnityで、家庭用ゲーム機でもプレイできるゲームを制作
「このゲームの制作で、初めてC#、Unityを使いました。エンジンとしての多機能さと安定度はやっぱりUnityならではだと思います。勉強もしやすかったです。短い開発期間で初めて触っても、皆がすぐに慣れることができるぐらい習得しやすいエンジンだなと思いました。Unityを使ったメリットは大きく二つあって、一つはエディター拡張の機能でツールを何個か制作し、開発効率を上げやすかったこと。もう一つは、素材をアセットストアで調達できたことです。メンバー全員がプログラマなので、素材の制作には苦労してとても助けられました」(宮﨑泰輔)
「アセットは無料のものも多いですよね。使う時も、Unityだとネイティブに比べて導入しやすいのですごく重宝しました」(石村大吾)
「自分はプロジェクトが半分くらいまで進んでいるところから途中加入したのですが、Unityを使ってみて驚いたのは、今までプログラムで全部やっていたところをボタン一つでできることです。当たり判定なども、マウス操作だけで出来るのに驚きました」(池淵大和)
「ステージも大きいし、ゲーム内に人物を200人くらい登場させているためにデータがすごく重くなってしまっているのを軽量化するのに苦労しました」(岩﨑俊介)
「これだけのボリュームがあるゲームを2、3ヶ月で作れたのはすごいと思っています」(長谷亮汰)
「自分がリーダーを担当したのですが、Trello(タスク管理ツール)を使ってタスクの割り振りをしたり、優先度を付けたり、誰がどれだけタスクが進行しているかを把握しながら作っていきました。それでも足りない部分をちょこちょこ補ったりしました」(石村大吾)
「やっぱり開発の終盤になってくるとある程度風呂敷を畳まなければいけなくなってくるので、ここは最悪の場合できなくても良いというタスクと、絶対にやるタスクを上手に割り振って、それぞれに適任の人に回してうまく作業が進みました。次は、またこのメンバーで、もっと時間をかけて、ボリュームを増やした面白可笑しいゲームを作りたいですね」(宮﨑泰輔)
開発だけでなく、その先のリリースまでも考える
ゲーム開発研究学科の鎌田陽介先生は、自身もインディゲームを制作し、iGi[indie Game incubator](日本在住のインディークリエイターの為の無償インキュベーションプログラム)に採択された経験を活かし、学生に指導している。
「昨年、制作したゲーム『蒐命のラスティル – とこしえの迷宮城 -』がiGiに採択されまして、多岐に渡るレクチャーを受けました。インディーゲーム会社は作るだけじゃなくて、売ることも考えなきゃいけないんです。苦労して作った作品が、売れなかったら意味がない。きちんと売る前に宣伝しよう、などマーケティングなどのノウハウも、教育として取り入れています」(鎌田)
開発技術を教えるとともに、実際にゲームを作ったその先のノウハウまで学生に指導している。
「イメージしているのは、開発チームをゲーム会社のようにしようということです。開発したゲームの販売を目指すということで、マーケティングやPRのやり方を教える。ゲームを作って終わりではなく、宣伝のところまで開発者自身も考えなければいけない。SNSでの宣伝方法なども指導しています」(鎌田)
その背景には、インディゲーム開発者が増えているという流れもあるという。
「当校では、卒業生がゲーム会社に就職しますが、それ以外のキャリアとして選択肢が増えてきています。会社でステップアップする道もあれば、独立して個人事業主になったり、会社を作って自身が作ったゲームを売るという道もあります。Unityがあることで、それが現実可能となってきた。もし後者の道を選ぶのであれば、販売やマーケティングの経験があるので、どんな選択肢を選んでも支援したいと考えています」(鎌田)
同じくゲームエンジニア学科の長濱幸雄先生は、学生が就職活動を行う際に企業からの反応を考えた指導を行っている。
「一年生では自分の表現したいことを表現する作品、二年生では業界に行くための作品を制作する指導をしています。そこで重視しているのは、短時間で企業に魅力が伝わるゲームを作ろうということです。以前は企業もネイティブ環境で開発できる学生への需要が高かったのですが、企業でもUnityを使って開発しているケースが多くなり、企業側もUnityエンジニアを受け入れるようになりました。三年生ではチーム制作を行いますが、多人数での制作になると、GitHubでの連携などの理由でほとんどの学生がUnityを選びます」(長濱)
「ネイティブ環境で学んでいた生徒がUnityを使うようになって、ネイティブ環境でゲーム制作をする時にUnityから逆輸入させてもらった技術や操作方法を再現してみようという風に考えられるようになりました。Unityを使って機能を学んで、その機能を自分で再現して開発が効率化できるんです」(鎌田)
これらのゲームは、「500円で販売することを目標にして作ってみよう」と鎌田先生の元、制作された。
「私の目標は、学生たちが最終的に起業してインディーゲームクリエイターとして独立することで、神戸の地をインディーゲームの都市にしたいということなんです。Unityであればマルチプラットフォームやローカライズもやりやすいということも学生に指導していますし、将来的には実際に学生の作品を販売したり、学生の起業を支援するところまでたどり着きたいなと考えています」(鎌田)
「学生の間に実績を作って欲しいですね。理想的には一年生の段階から売ることを前提に作って、二年生の段階で売り上げを得て、それですごく売り上げたらそのまま起業、という流れです」(長濱)
学生に高い技術力を身に着けさせるだけでなく、将来の様々な選択肢をも提供したいという思いが伝わってきた。
「蒐命のラスティル – とこしえの迷宮城 -」はまた、鎌田先生率いるインディゲーム開発チーム「神電ゲームズ」に長濱先生も加わり、来年のリリースに向けて現在絶賛開発中だ。