1963年、コンピュータ幕開け時代に“新時代を創ろう”という情熱においてスタートした日本初のコンピュータ教育機関、京都コンピュータ学院(KCG)。歴史の古い学校だが、ゲームなど新しい分野に一早く対応する柔軟性もあり、現在では海洋、農業、AI、フィンテック関連など先を見据えたIT応用分野も学ぶことができる。果たしてどのようにUnityが教育に活用されているのか、高橋功先生に聞いた。
プランナーであってもUnityを習得させる理由
そもそも京都コンピュータ学院にゲーム制作のコースが出来たのが、20年以上前。高橋先生も卒業生で、「ただひたすらにゲームを作る学校に行きたい」という思いで入学したという。
「昔は、プランナーがプログラムを使わずにゲームを作る場合はFlashで“一応動くもの”を作るしかなかったんですが、Unityの導入によって、いち早く自分のアイデアを形にすることができるようになったというのは、かなり大きいですね。私はゲームのプランナー系(企画)を教えていて、基本的には、企画書とかデザインの考え方から作品制作という流れになるんですが、企画側がUnityを使えるとすごくメリットがあるんですよ」(高橋先生)
果たしてそのメリットとは?
「以前は、企画書はPowerPointで提出していたんですが、今はそれにサンプルで動くものをUnity等で準備して、一緒にプレゼンするという形が主流になってきています。企画を学ぶ学生にもUnityを習得してもらっているので、ゲーム会社さんから、『ちょっと今、プロジェクトが大変だからUnityが使える人手が欲しい』と言われて、すぐにご紹介できるようにみんな育ってくれていますね。基礎から応用につなげる力と即戦力という両面から鍛えています」(高橋先生)
答えの出ない問題をグループワークで乗り越える
実践的な力をつけるという専門学校の使命を果たす京都コンピュータ学院だが、大学との違いは何だろうか?
「大学は学問を学ぶ所。私達のような専門学校の強みは、現場と同じような環境で、現場と同じような開発スタイルで、経験を積めるということです。大学でもそうですが、学校って何か失敗しても怒られずに済む最後の砦だと思うんですよ」(高橋先生)
そこで高橋先生が行なっているのが、実際にゲーム会社で起こる問題などを定義し、ロールプレイをするという授業だ。
「だから、失敗前提の課題を多く出しています。答えの出ない問題をグループワークで乗り越えてもらう。給料体系から、会社の規模や使えるお金を設定して、こういう問題が起こりました、じゃあどう解決しましょうかというような課題を出すんです。毎年出しているのが、『もし日本で、ソーシャルゲームのガチャ課金が禁止になった場合、ガチャ課金より集金・集客が大きく見込める方法を考えなさい』という課題です。これには答えがない。答えがあったら私が知りたいくらい(笑)。それほど、学生には考え抜いてもらう授業を行なっています」(高橋先生)
そうして学生たちが本気で自分の意見を考え抜く授業であるため、学生同士が衝突することもあるという。
「特にゲーム業界志望の学生は、『自分はこういうものが作りたい』というこだわりが強いので、比較的ぶつかることが多いです。私は、それも推奨しています。特にプランナーは、自分の意見を通さないといけない職業でもあるので。意見のぶつかり合いを止めてしまうと、学生が成長しないんですよ。言い争った後は1人ずつ呼んで、何でこうなったのかという分析をきちんとさせるようにしています」(高橋先生)
奇譚ない意見が交わされて行く中で、京都コンピュータ学院では学生がユニークな作品を制作している。
「バラエティーが豊かなんですよ。早い段階でVRをやりたいとか、弾幕シューティングを徹底的に作りたいという学生もいれば、映像作品を中心にゲームの内容を入れて、ちょっと特殊な物にしたいとか。学生たちのアイデアには驚かされることが多く、本当に見ていて飽きないですね。他のチームが賞を取ったりすると、追い越された気がして、自分たちも気合いを入れないと、と良い相乗効果が起きています」(高橋先生)
ゲーム業界への理解が社会でも広まってきた
「本学院に入学する学生も非常に増えているんですが、やっぱりゲーム業界が社会にすごく認知されるようになったんだと思いますね。『僕ゲームが作りたい』と言った時に、親御さんが快く送り出してくれる。私たちの頃は大反対されましたから(笑)」(高橋先生)
また、Unityを導入することで、アウトプットのクオリティが上がるという効果も生まれている。
「これまでは、企画やアイデアの段階で、面白いか面白くないかというのを学生と話していたんですが、最近は『一回Unityで作ってみなよ』って言う機会が増えたんですよね。そうすると、『動かしてみたらやっぱり面白くなかったのでもう一回アイデアを組み立てよう』と判断できる。早い段階で形になることで、学生のモチベーションの維持がしっかりできるようになったのが大きいと思います」(高橋先生)
これからも世界的に成長が見込まれているゲーム業界に、優れた人材を送り出し続けるのが京都コンピュータ学院の使命だ。
学生たちの生の声
現在の京都コンピュータ学院の中でも優秀な成績を出しているのがチーム「チームナラトリア」だ。
「現在Unityで開発しているのは『ナラトリア』というダンジョンRPGゲームで、リーダーのハタリュウジさんが描いたキャラクターをヨシダさんがモデリングしています。スタートを押すとマイルームへ進んで、ゲームのストーリーが始まるという仕組みを作っています。コロナ禍なので、全てリモートで連携しながら作っているんです」(イケミズ)
「今回の企画は僕が考えています。このゲームは、アイテムが完全にランダムステータスなんです。ダンジョンRPGっぽさも残しつつ、ストーリー的な部分も楽しんでもらう。RPG味を強くしたダンジョンRPGですね」(ハタ)
「モデリングって、だんだん形になっていって、自分の思っていた物に近づいてくるのが面白くて。完成したときのクオリティが高ければ高いほど、モデリングをしたときの楽しさも大きいです」(ヨシダ)
「僕も3Dのツールをいろいろ学んでいて、最近は絵を描くことも始めて、各方面のスキルを極めていきたいと思っています」(マスダ)
「僕はデザイナーを目指しているんですが、プログラミング系の授業で苦労することもあります。ですが、これからのデザイナーにはUnityのようなプログラミングスキルも必要だと思っていて…」(ハガ)
「プログラムのアルゴリズムを理解するような授業もあるので、実際のプログラミングですごく役に立っています」(キダ)
「僕はBit Summitや、Discord上でゲームを展示していて、そういう実戦の場で発表するのはやっぱり刺激がありますね」(ハタ)
ぜひ彼らの成長を見守ってほしい。