石川・金沢大学/教育DX推進への挑戦とUnityによるPBLの実現

創設から160年余の歴史と伝統を持ち、STEAM教育や異分野融合の教育の強化など新しいかたちの教育を4学域・20学類に渡って行っている石川県金沢市の金沢大学。学内のICTインフラの整備・運用を担ってきた「総合メディア基盤センター」は、コロナ禍で全学でのオンデマンド型授業への移行を余儀なくされた状況においても大きな役割を担った。2021年4月に「総合メディア基盤センター」が改組されて誕生したのが「学術メディア創成センター」だ。この改組に伴い、従来の役割に加えて新たに課せられたミッションが全学のDX化推進である。学内の教育・研究・業務用として活用するxRコンテンツ制作を担い、さらにxRコンテンツ閲覧・操作システムの一つとして、リアルタイムVFXシステムを導入した常設「xRスタジオ」を設置した。同センターの西山宣昭教授は、センターでの取り組みを始めた理由をこう語る。

「本学では、文理など分野を問わず教育・研究データの量・質の大規模化・電子化が進んでいます。このようなデジタル資産を教育に還元するため、高度なデータ可視化技術や最新のxR 技術を駆使した教育素材・デジタルメディアの開発、それらの視聴・配信システムを学内で制作できる環境を整えました」(西山)

西山宣昭教授
目次

教育DXを推進する常設型スタジオ

収録スペースとオペレーション卓

xRコンテンツの制作、コンテンツ閲覧・操作のためのシステム開発を行う技術職員が集められ、センター内に「教育DX推進タスクフォース」が編成された。そのチームでUnityが使われている。xRスタジオの撮影スペースは横6.5メートル、縦4.5メートルに及び、グリーンバックで講演者とCG背景を合成することができる。講演者の位置データを取得するトラッキング機能付きのカメラがあり、講演者と背景を合成した映像をリアルタイム配信することが可能だ。背景素材としてUnityで作成した3Dコンテンツを使うことで、複雑な挙動を行うコンテンツを出力することができる。まるでテレビ局さながらに、コンテンツ作成から撮影、配信、録画まで行うことができるこのスタジオでは、授業のための映像だけでなく外部向けシンポジウムも行われており、教育DXを推進するための重要な拠点となっている。

スタジオでのオペレーション

大学内では、様々な学域でUnityが活用されており、センターでも講義や研究のためのコンテンツを制作している。

「センターの技術職員は、Unity未経験者も多かったのですが、みるみるうちに習得していきました。例えばPLATEAUを使って大学キャンパスのモデルを作ったり、顕微鏡や360度カメラで計測した空間データを用いて、顕微鏡像や遺跡などをVRで再現したり、数値シュミレーションからの分子運動の計算結果など様々なデータをVRやMRで可視化するコンテンツ等を作っています。Unityを用いて静的なコンテンツをVR内で動作させて活用することにより、講義、実験、実習での高度な教材の活用に繋げられるよう試行錯誤しています」(西山)

「学術メディア創成センター」メンバー

各学域の教員も独自にUnityを活用しているという。

「Unityの特性を充分に理解した上で、それに応じた新しい授業を作っておられる先生もおられます。学生にもUnityを教えてアプリを開発したり、また学生自身も自発的にUnityを使ってゲームを作るなど、学内でのUnity活用が広がってきています」(西山)

健康科学関連の授業科目で活用するUnityで作られたコンテンツ

Unityで本来のPBLが実現できる

東昭孝先生

金沢大学では、「様々な学類の学生に参加して欲しい」という想いから、共通教育自由履修科目でUnityの授業を行っている。授業を担当するのは東昭孝先生だ。東先生が用意したサンプルゲームを制作し、その制作過程の中でアセットやスクリプトの書き方を身に着けるという授業だ。学生たちはモチベーション高くUnity学習に取り組んでいるという。

「学生たちのUnityへの興味がすごく高いですね。講義には定員の倍以上の学生が集まってくれて、抽選で選んでいる状況です。自由履修科目なので、卒業単位とはあまり関係のない講義にも関わらず、高い人気があります。その理由は純粋にゲームを作りたかったり、プログラムを学んでみたいというものだったりするのですが、9割が未経験者なのに8回の講義でゲームを一本作り上げるところまで行けるというのはUnityならではだと感じます」(東)

学生のモチベーションの高さは西山先生も感じているという。

「Unityの講義では、授業後も学生たちが質問のために東先生をたくさん訪れてきます。私は30年以上大学で授業をやっていますが、こんなに学生が食い付いてくるような授業は見たことがないですね。実際にUnityを使ってみると自分でもゲームを作りたくなってしまうのではないかと思っています。さらに、Unity認定試験も学生自身が自主的に勉強して受験しています。まさにこれこそが大学教育が目指すべきProject-Based Learning(PBL)教育の先導事例になるのではないでしょうか。自分で問題を設定して自分でアイデアを考えるというサイクルが実現できている。プログラミングというと学生は興味を持ちづらい場合もありますが、そこにゲーム作成という目的が設定されると、学生たちが自ら動くようになるのは本当にすごいと思います」(西山)

教育だけではなく、大学の社会貢献に関わるコンテンツの作成にも関わっている。金沢大学は元々金沢城内に作られた大学だった。現在は移転しているが、かつての旧城内キャンパスをメタバースで再現するというプロジェクトだ。センター内でモデリングし、Unityを使って体験者がアバターとしてキャンパスを散策できるというコンテンツである。東先生が中心となって制作しており、高い再現度を誇っている。

旧城内キャンパスプロジェクト

「Unityでどこまで出来るか」を最初に考えて得た勝利

Unityゲームジャムにて制作に打ち込む学生

金沢大学で行われたサウンドをテーマにしたUnityゲームジャムでは、コンサート会場で、次々と現れる敵の音符を倒すことでコンサートを続けることができるシューティングゲームや、環境音を頼りに迷路から脱出を目指すゲーム、ジャンプしてより高く登ることを目指し、その過程で様々な音が出るなど個性的なゲームが作られた。高いレベルのゲームが揃う中で一位を獲得したのが、チームDの「Voice of nature」だ。

チームD
「Voice of nature」

プレイヤーは箱庭の中でゴールを目指すが、自キャラが表示されないために、今自分がどこにいるのかわからない。土、石、川などの各ブロックをキャラクターが移動するとそれぞれの音が出るので、音を頼りにして自分の位置を把握し動くことになる。また落ちている果物を拾ってゴールにいる動物に届けるというミッションもあり、探索する面白さもゲームに加わっている。どのようにしてこのゲームが作られたのだろうか?

「ブレストで全員にアイデアを出してもらい、普段Unityを使っている自分が制作時間内で実現できるように企画をまとめることから始めました。最初は位置を特定する謎解きゲームのサウンド版を作ろう、と考えたんです」

まずアイデアを固め、作業を分担した。チーム内での担当は、グラフィックが3人、プログラマが2人。素材から作り上げ、グラフィック担当もプログラミングに関わった。

「プログラミングの経験もありませんでしたし、ゲームを作った経験もありませんでしたが、Unityを使って自分が描いた素材を動かすことができました」

メンバーは「チームの皆のおかげで良いものができた」と話す。Unityで出来ること、時間内で完成させることというゴールを最初に設定したことで、グラフィックとプログラムが上手く噛み合い新しいアイデアを形にして質の高いゲームを作り上げるという理想の開発例となった。

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