1972年、青森県八戸市に開設された八戸工業大学。工学部、感性デザイン学部の2学部6学科を擁し、人材育成のための教育と、地域の課題を解決するための研究活動を行い、地域社会への貢献を目標としている。現在、工学部のシステム情報工学科にてUnity教育を行っており、授業のほか地域の博物館で展示物の共同開発も行っているという。今回は、システム情報工学科 伊藤智也先生にお話を伺った。
視覚的な操作で開発できる部分とプログラミングでできることのスムーズな接続がUnityの魅力
Unityを導入したのは2015年頃のこと。Unityを選んだ理由は?
「情報工学の分野としてプログラミングのスキルを身に付けるという大事な目標もありますので、Unityの視覚的な操作で開発できる部分とプログラミングでできることがスムーズに繋がっている点を評価しました。そして、Unityだと学生も理解しやすかったようです。そこでまずは研究室から導入して、現在は講義でも教材として取り入れています」(伊藤先生)
視覚的に操作できるメリットもあるが、やはり工学部なので、プログラミング教育も重要だ。Unityなら、その両立ができる。
「授業では、CG関連の講義を担当しています。コンピューターゲーム開発を通じて、グラフィックプログラミング、ゲームエンジンテクノロジー、視覚効果などの技術を教えています。以前はそれぞれをC言語を使用して実装方法を教えていたんですが、Unityを導入したことでそういったことを教えるのがすごくやりやすくなりました。教材はCG-ARTS協会のCGエンジニア向けのものを使っているんですが、座学で勉強した教科書にある知識の内容をUnity上で演習と組合わせて教えられるのはメリットです。プログラミングが得意な学生であれば、Unityに頼らず作ることもできますが、苦手な学生もいました。苦労してやっと三角形や多角形を画面に表示させている場面もみられ、そこで挫折してしまう学生もいました。Unityでは、これまでCGエンジニアたちがゼロから作ってきた機能を一通りカバーしてくれるので、若い学生が比較的簡単に最先端の表現技術に触れることができます。」(伊藤先生)
Unityを使った授業では、3DCGの素材作りや映像編集まで総合的なコンテンツ制作の指導を行っているという。
「BlenderやCGソフトウェアで作ったCG素材をUnityで表示させ動かしたり、出来上がった作品の映像編集まで行っています。1年生の段階ではとりあえず様々なコンテンツ制作ソフトを体験してもらい、2年生になったら専門的に学ぶという段階を踏んでいるんです」(伊藤先生)
学生がUnityに興味を持つ理由
学生たちが、Unity製のゲームを遊んでいることから、学生たちのUnityへの興味も集まりやすいという。
「学生たちも、漠然とプログラミングを学ぶよりも、『プログラミングしてゲームを作るぞ!』という具体的な目標が設定される意欲的に取り組んでいます。例えば、数学や物理法則もゲーム制作に役に立つ知識だ、というイメージが出来るとモチベーションが掻き立てられるようです。また、ゲーム制作をゼロから作ってみることで学生は開発の流れを体験できます。主にイメージしやすいエンジニアのコーディング作業型は下流工程。上流工程はそのエンジニアたちの作業のスケジュールや、調整管理職のような立ち位置の職種です。それはゲーム制作でも、大型のシステム開発でも似たような流れになっていると思うんです。自分で手を動かしてゲーム全体を作ってみることで、企画を考える人の大変さや苦労も分かるし、現場のプログラミングの大変さもわかる。そういった実際の仕事の流れをまとめてゲーム制作という形で、学生たちが特に意識せずに勉強できるのがメリットですね」(伊藤先生)
それは学生たちが就職する時にも役立つことだ。
「学生たちの進路はさまざまで、ソフトウェア開発、SE、ネットワーク技術者だったりします。まだゲーム業界を志望する学生は少ないですが、最近では入学時にすでにUnityを触っている学生もいます。この先、どんどん学生たちの進路も変わっていくでしょうね」(伊藤先生)
博物館でのUnity作品の展示
伊藤先生のゼミの作品は、博物館に展示されたり、市のイベントで展示されたりと地域貢献活動に役立てられている。
「八戸市から、博物館にデジタルコンテンツを増やしたいと大学の方にお話を頂いたのがきっかけで共同研究に取り組んでいます。取り組み自体は今年で3年目になります。毎年テーマを変えていて、他のゼミはクイズゲームや性格診断アプリを作ったりしているんです」
また、博物館に展示した作品として、八戸市博物館に寄贈されている昭和の八戸市各所の風景写真の中に、鑑賞者が入り込んで記念写真を撮れる「はちのへ写真館」、3Dデータ化された八戸市の文化財や史跡をインタラクティブに操作・鑑賞できる「3Dぐるぐる」などがある。
「いろいろな作品を作りましたが、写真で合成して画像処理をしたり、3次元形状計測された立体物をCGを見たり、それぞれの核となる要素技術は、ゲームプログラミングを学習することで身についています。現在はどんどん機材が進歩していますし、Unityであれば、アセットを使用することでCG制作やプログラムが不得手な学生でも様々なことができます。他にも、ロボット制御や自動運転などもゲームプログラミングで大体カバーできる。すごく汎用的な作る力が身につくと思います」(伊藤先生)
「はちのへ写真館」
展示以外にも、例えば、同学の防災工学の観点から雪崩のシミュレーションを研究されている先生との共同研究として、Unity上で雪崩のシミュレーションを可視化するVRコンテンツを制作した。実際にVRデバイスで体験することによって予想よりも遥かに早く雪崩が斜面を覆う様子がわかり、注意喚起につながる。
「これは計算工学を防災に生かすという学会で学生が発表したものです。また、Unityで防災に関するARコンテンツを制作したい、という土木系の会社さんからの問い合わせにも対応しました。カメラで取得した情報に動きのある波や水流を合成することは、UnityのAR開発ツールとアセットを活用することで、短い開発期間で開発することができました。」(伊藤先生)
「現状では、Unityでアプリ開発やプログラミングが簡単だと思ってもらって、そこからステップアップしていけば楽しく学んでいけるのではと考えてます。開発者の間では、JavaやPythonといった言語がメジャーで主流ですが、プログラミングを継続して学習するための勉強の基盤としても、Unityの環境で学べることはたくさんあると思います。Unityで勉強したことでやれることがたくさん増えたと実感して欲しいですね。」(伊藤先生)
UAAのメリットはBYOD
UAAに入会したメリットとして、学生たちがそれぞれのマシンにUnityを入れて作品制作ができることだ。そうすると、学校のマシンだけでなく自分のマシン上でUnityを使う事ができる(BYOD)ので、場所を選ばず制作ができる。
「UAAに入会したことで、学生は講義で使用するノートパソコンにUnityを導入することができます。そうすることで、学生はどこでも制作ができるようになりました。また、今後は認定試験を多くの学生にも受けてもらって、一人でも多く合格者を出したいです。UAAでは試験対策のサポートも受けられますので大変助かります。学生にはUnityでプログラミングに興味を持ってもらって、ゲーム制作に留まらず、Webシステムや制御システム、AIの開発など、様々な道を選択して進んでもらってもらいたいです。プログラミングの敷居がUnityの環境で下がることは、将来の選択肢を広げるための勉強の教材として、いいのかなと思います。今後、さらに多くの作品を学生が作ってくれるようになるのが楽しみです」(伊藤先生)