2021年、東京ゲームショウにて発表された、ゲームクリエイターの登竜門『日本ゲーム大賞2021 アマチュア部門』。応募作品全493作品という激戦の中から、HALの学生チームが受賞10作品のうち8作品を占めるという輝かしい結果を残した。さらに、日本一の栄誉となる大賞をHAL大阪の学生チームが受賞。HAL東京・HAL名古屋も優秀賞、佳作を受賞した。うちUnityで開発されたゲームが6作品となっている。
連続受賞記録15年というこの記録を打ち立てたHALのUnity教育について、3校の学生と教員に話を聞いた。
「まず前提として、HALは『環境が人を育てる』という考えで最強の教育環境を準備しています。ゲーム開発機・ソフトウェア・カリキュラム・教官など、全てが整った環境で実践的な教育を受けることで、卒業してからプロとして即戦力で働ける人材を育てます」
そしてUnityをカリキュラムに取り入れている理由をこう語る。
「Unityはゲーム会社の開発現場で利用されることが非常に多く、実践教育を行っているHALとしてもプロが利用するゲームエンジンのUnityを学生のうちから学習することは、就職してから即戦力になるための一つの知識・技術であるという考えからです。その教育効果の一つが今回の受賞に繋がっていると考えています」
ゲーム大賞でも求められるゲームとしての面白さ、斬新なアイディアを形にするという点において、Unityの特性が役立っているという。
「例えば低学年の学生は、面白いゲームアイディアが浮かんでも高学年のようにクオリティの高いゲームを作り出すのが難しいんです。そこでUnityを利用したノンプログラミングで制作できる2D・3Dゲームの作り方を学習し、ゲームのアイディアを形にして面白さの検証を行っています。教官も、学生からゲームの中で表現したいことについて相談をされたときに、サンプルをその場で作成して、実際に見てもらうことができる。これは開発スピードが速いUnityだからこそできることであって、面白いゲームアイディア・企画であるか判断に迷うときはとにかくすぐにUnityでプロトタイプを制作するように指導しています」
さらに、Unityを使ってNintendo Switch等コンシューマー機のゲーム制作の指導も行っている。
「Unityはプロトタイプの制作にも向いていますし、高学年では卒業制作展や産学連携、企業との共同ゲーム開発、VRゲーム開発など、短期間でグループでのクオリティの高いゲーム作品を制作する場合にも使用しています。自分の考えたゲームアイディアを形にしやすいので楽しんでゲーム制作の学習ができていますし、学習に対して高いモチベーションを維持して継続して勉強することができています。またUnityで制作された既存のゲームを意識するようになり、Unityをどう使えば制作できるのかといった興味を持って、その好奇心が技術研究というところにもつながっています」
またHAL東京の佐藤先生はこう語る。
「Unityをカリキュラムに導入したのはここ最近のことなんですけれども、やはり世の中スマートフォンの開発等はUnityが中心に行われているので、急いで導入をさせていただきました。やはりUnityは開発において非常にイテレーションの速いところが特徴で、コンテスト作品の開発にも非常に役立っているので、カリキュラムとしても重要だと思っています」
HALのカリキュラムでは、ゲームのアルゴリズム、つまりゲームの成り立ちを覚えるために1年生にUnityの授業を行っている。また、ゲーム企画コースの学生が自分の企画をポートフォリオとして提示するためにUnityを使って制作を行っている。
「Unityにはゲーム開発に必要な基本的な機能が全て揃っていますので、開発するために必要な機能を学ぶのに非常にいいツールとなっています。また、プランナー志望の学生でもUnityを使えば開発することができるので、自分の発想をすぐに形にすることができる点で非常に重宝しています」
Unityによって発想を形にできることで、ゲームの面白さを追求できるメリットがある。
「コンテストに応募するチームに指導しているのは、まずはゲームのコンセプトをしっかりと考えてから作ろうということです。コンセプトが分からないとUnityでプロトタイプを作ることもできないので、どういった面白さを持ったゲームを作ろうとしているのか、という点を考え抜くところから始めています。プロトタイプを制作するとそのゲームの面白さが見えてくるものなので、そこからさらに、どう遊びやすくするのか、いかに長く遊べるようにするかという味付けや肉付け作業を始めます」
HALの強みは、各学校、そして学内での切磋琢磨によって作品のクオリティを高められるところだ。HAL名古屋の加藤先生はこう語る。
「HALでは学校の中でも切磋琢磨して作品制作をしていますが、やはり対外的に作品としてものを出してどれぐらいの評価が得られるか、学生の実力を確かめさせるためにもコンテストの応募に力を入れています。対外的なコンテストで評価を得るということは、学生にとって『自分が作った作品が学外でもここまで通用するんだ』という自信にもつながります。日本ゲーム大賞はHAL全体で取り組んでいますので、学年全体、学科全体が受賞に対して『おめでとう』と祝う姿を見ることで、来年は自分たちも頑張ろう!という形で盛り上がることができるんです」
今回の日本ゲーム大賞のテーマは「メビウスの輪」。そのテーマに向き合う際にも苦労があったという。
「そのままメビウスの輪をゲーム内で表現してしまうと、他のチームと似たような作品になってしまいます。どうやってテーマを昇華させていくかの解釈が一番悩んだところですね。実際の指導では、コロナ禍でオンラインによるやり取りが多く、思ったことが伝えきれないこともありました。そのズレを直す試行錯誤を繰り返し、少しずつステップアップして完成に近づけていきました」
同じくHAL名古屋の水貝先生はこう語る。
「HALは昔から対外的なコンテストに力を入れて受賞を目指しています。その理由の一つは、ゲーム業界を目指す学生にいわゆる“箔”を付けさせる、ということです。自分の力量をプロの現場、ゲーム会社に認めてもらう時には、『コンテスト受賞』という実力が分かるものがあるとやはり評価も高くなるんです。日本ゲーム大賞は実際にプロのクリエイターによって審査され、多数のゲーム関係者が参加する『東京ゲームショウ』の中で発表されるコンテストです。ゲーム学部を挙げて目指すコンテストだと指導してきた成果が、学生たちの就職実績にもつながっていると思います」
そして対外的なコンテストに出場するにあたり、学生たちがチーム制作の経験をできるという点にもメリットがある。
「大人数のチームで制作することは非常に貴重な経験になります。ゲーム企業の方からもグループワークの経験を大事にしてほしいと言われるんですね。一人でもプログラミングやUnityといったツールの習熟はできるんですが、プロの現場になるとチームを組んでのゲーム開発になります。複数人だからこそ起こるトラブルや、逆に複数人だからこそできる自分一人の力を超えた制作に向けての力とというのは、実際にやってみないとなかなか実感ができないものです。そうしたグループワークを通してのトラブルなども、ゲーム業界を目指す学生には非常に大きな経験と思っています」
そしてHALでは、ゲーム制作に他学部の学生も参加してクオリティを高めている。例えばサウンドをミュージック学部に所属している学生に協力してもらうことで、さらに完成度の高いオリジナリティあふれるゲーム制作ができるというわけだ。
HAL東京で「ツキカゲ」制作チームを指導した村瀬先生に、今回の受賞についてお話を伺った。
「ツキカゲはUnityで制作しました。Unityを使うことによってゲーム本来の面白さの部分に制作を集中させることができたので入賞に結びついたと考えています。プログラマーだけでなくプランナーもデザイナーもUnityを使って制作していますね」
指導する上での苦労は?
「学生たちの技術力は高かったので技術的な面では困ることはなかったですね。Unityもかなり使い込んでいましたのでスムーズに制作ができました。ゲームを作る上でゲームの面白さ、レベルデザインですとか操作性のしやすさ、そういうところがコンテストの結果に結びついているところだと思いますので重点的に指導しました」
Unityで制作したことで、感じたメリットもあるという。
「ゲームのルール作りに難航して、何度もプロトタイプの制作をし直しました。そういったプロトタイプのトライ・アンド・エラーがやりやすいというのが、Unityというゲームエンジンを使うメリットだと思います」
受賞作品
大賞
HAL大阪「ウニィ研究所」 チーム名:※スタッフが美味しくいただきました(Unity製)
ステージは上下に分かれて繋がっており、スクロールさせることで、ステージに変化をもたらすアクションパズルゲーム。本来、別空間であるステージを、あたかも一つのステージとして主人公であるウニィを移動させて、配置されたクリスタルを全て破壊できればゲームクリアとなる。メビウスの輪の特性である「上下左右が反転 」 と 「 全体がループ 」という2つに着目し、ゲームのステージで表現した独自性が高く評価された。
「今回、大賞を受賞できて、プロの方々に選んでいただき大変うれしく思っています。ゲームの面白さを伝えるところや、遊びやすさにこだわりを持って制作してきました。それらをどこまでもとことん追求していったところにかなり苦労をしました。Unityは、考えた面白さを次々に実際に形にしていけるところがすごくいいところだと感じています。ゲームを作っていく中でこういう機能が欲しいなと思ったものが既に備わっているのですごく作りやすい環境なのと、テストプレイをしながらすぐに値を調整できるのですごく効率のいい開発環境だと思います。今回の制作で経験した、チームの中での立ち回りやゲームの面白さをどう遊んでくれる人に伝えていくかということは、今後も役立っていくのではないかと思います」
優秀賞
HAL名古屋 「LUMINO La ruta naturaL」チーム名:てーぶるぱんち(Unity製)
画面を区切り、『メビウスの輪』状に繋ぐ・そこを通ると位置反転するアクションパズル。ゲーム内の全オブジェクトをチーム内で制作し、UnityのHDRPを活用し、光の表現、水・マグマ・草揺れなどシェーダーによる演出にもこだわっている。
「1名のプランナーと4名のプログラマー、5名のデザイナーと6名のサウンドと1名の映像制作という17名のチームで制作しました。一番のこだわりはグラフィックです。UnityのHDRPを使って、ライティングやコンポジットなど全体的にクオリティの高いグラフィックを目指しました。水やマグマや動的に動く草花など、Shaderを使った実装を行い、画面内が常に動くものであふれているよう見えるところに注目して欲しいです。大賞を狙って作っていましたので、来年こそは大賞を目指します!」
HAL名古屋 「DungeonInversion」チーム名:ベイビーのひとりごと(Unity製)
メビウスの特徴「いつの間にか表と裏が入れ替わっている」という要素からインスピレーションを得たアクションゲーム。要素の面白さを引き出すため、解釈したテーマをプレイヤーアクションに持ってくるのではなく、ステージ構造やギミック攻略といったゲーム自体に遊びを落とし込めるか、というところを意識している。
「自分たちが夢見てきた舞台なので本当に受賞できてうれしいです。Unityは1年生の頃から触れていて、ゲーム大賞でも使用したいという強い希望がありました。Unityはやはりすぐにゲーム画面に表示されるというのが一番楽しいです。動的にゲーム画面を動かすことができるので、やりがいにも繋がります。今回、チーム制作の経験とメンバーとの絆、そしてUnityを使った経験と実力を手にすることができました。難しいこともたくさんありましたが、それ以上に楽しいことを共有してくれた仲間たちだったので、とてもうれしく楽しく制作をすることができました」
HAL大阪 「シロクロコネクト」 チーム名:リスティングの壺(Unity製)
白と黒の次元を行き来する2Dアクションパズルゲーム。メビウスの輪を表が白、裏が黒の紙で作った時、表面をなぞるとつなぎ目で色が変わることに着目した。簡単で快適な操作性と気持ちいい感触、作りこまれた18ステージにコンセプトを念入りに意識したギミック、そしてモノクロで不思議な世界観が特徴。
「憧れであった日本ゲーム大賞で優秀賞を受賞できて大変うれしく思います。最初は、メンバー全員がUnityを使い慣れている訳ではなかったため、厳しい挑戦になるかと思われました。しかし、Unityの扱いやすさ、書籍やインターネット上にある情報の多さに救われ、無事にゲームを完成させることができました。来年こそは大賞を目指したいと思います!」
HAL東京 「オリヒメ」 チーム名:こもへり-Common Heritage-
主人公である「オリヒメ」を操作し、折り紙でできたステージを折って繋げて進んでヒコボシまで辿り着くことを目指すパズルゲーム。ステージを折り曲げて道を作り変えることが出来るので、紙を繋げて別の紙に移動したり、折れ目を通ってステージの裏側へ行くなど頭脳を使うゲームになっている。49ステージものステージが用意されている。
「チームの人数は13人です。プログラマーが4人、プランナーが2人、デザイナーが2人、ミュージックが5人という構成になっています。開発で一番力を入れたところはプレイしたときの気持ち良さです。特に紙を折ったときに実際に紙を折っているように感じられるような気持ち良さ、そういったものに力を入れて開発しました。苦労したところは紙を折ったときの遅れです。折った直後に折れてしまうと気持ち良さがないので、画面の揺れやほんの少しの遅延を入れるという工夫をしています。また、音や演出にも細かなエフェクトにも力を入れて開発しました。先生にはプレイしたときの操作やコントローラーの操作の違和感を特に指摘されました。何度も調整を重ねてテストプレイを繰り返すことで、一番しっくりくるような形に収めることができました」
佳作
HAL大阪 「鏡娘」チーム名:睡眠欲(Unity製)
「メビウスの輪」を「無限と表裏一体」として捉え、「三面鏡」を題材にし表現したゲーム。合わせ鏡によって映し出された「鏡像」を使い、少女を鏡の世界から助け出す。プレイヤーの視点によって鏡像の見え方が変わり、ステージを変化させることができる。美しくも不思議な三面鏡の世界が魅力。
「栄えある日本ゲーム大賞アマチュア部門にて受賞できたことを大変うれしく思っています。私たちは今回初めてUnityのHDRPを使用してゲームを作成しました。Shader Graphを用いた背景演出や、Visual Effect Graph を使用したエフェクトの作成など、苦労した点も多いですが、ポストエフェクトやライティングを駆使してゲーム全体のグラフィックの質を上げることができたことはとても良い経験になりました。今後の制作でもまたHDRPでの制作に挑戦したいと思っています。」
HAL東京 「ツキカゲ」 チーム名:FMトクシン研究所(Unity製)
時間が何度もループする不思議な迷宮に足を踏み入れた主人公「ルゥズ」を操作し、脱出を目指すパズルゲーム。過去の自分の動きをマネする「ゴースト」が出現する。過去の自分の動きかたを再現するゴーストの視界や、門を開くカギを握る「クローラー」の動きを予測し、制限されたターン数内でいかに効率よく「ルゥズ」を操作するかが攻略のカギに。
「チームメンバーはプランナーが3人、エンジニアが3人、デザイナーが7人という構成になっています。以前からゲームを一緒に作ってきたメンバーが中心になっているので、気の合うメンバーと一緒に最後まで楽しく制作できました。実は応募の1カ月前で企画からゲームを作り直したのですが、そこは苦労しました(笑)。今回応募して、みんなで協力して作ったゲームが他の人に認められる経験を積めたのはとても良かったと思っています。卒業後、進路が別になっても、みんなとまたいつかゲームを作りたいです」
HAL東京 「Confettia」 チーム名:のんとのぶ
停電してしまった本の中の遊園地「コンフェッティア」を舞台に、ロボットの「ディア」を導き、再び灯りを取り戻すパズルゲーム。プレイヤーはページを折り曲げることで、自動で歩き回る「ディア」の足場をつないで、コンセントまで誘導。そしてプラグをつなげばステージクリア。単に足場をつなげるだけでなく、「ディア」の行き先を予想し、絶妙なタイミングでページを折り曲げることが攻略のポイント。
「チームの人数はプランナー2名、プログラマー3名、グラフィックデザイナー3名、サウンドデザイナー4名の計12名です。開発で楽しかったところはみんなで企画したゲームが実際に動いた時、実際に画面の中でキャラクターが動いた時ですね。苦労したところはチームの面々が能力はすごく高いのですが、個性的過ぎるので管理が大変だったところです(笑)。先生にいろいろ駄目出しをもらいつつも、アドバイスを生かしてより良くより良くという風に頑張ってきました。今回このチームで開発してきて本当に良かったです。これからも面白いゲームをみんなで作っていけたらいいなと思います」
2021年、東京ゲームショウにて発表された、ゲームクリエイターの登竜門『日本ゲーム大賞2021 アマチュア部門』。応募作品全493作品という激戦の中から、HALの学生チームが受賞10作品のうち8作品を占めるという輝かしい結果を残した。さらに、日本一の栄誉となる大賞をHAL大阪の学生チームが受賞。HAL東京・HAL名古屋も優秀賞、佳作を受賞した。うちUnityで開発されたゲームが6作品となっている。連続受賞記録15年というこの記録を打ち立てたHALのUnity教育について、3校の学生と教員に話を聞いた。