ものづくりが盛んな愛知県に拠点を置く工科系総合大学、愛知工業大学(愛工大)。「失敗を恐れず、チャレンジする」をモットーに、様々なジャンルのものづくりに挑んでいる。
そのチャレンジ精神が、2022年9月15日~9月18日に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2022」での出展で発揮された。情報科学部 情報科学科1~3年生の有志が、会場内のブースにて制作した11もの作品を展示し、来場者を楽しませた。それぞれ既存のゲームという枠にとどまらない自由な発想で作られた作品ばかりだ。作品のほとんどがUnityを用いて作られているという。指導したのは、同学部の水野慎士教授(CGメディア研究室)、松河剛司准教授(視覚情報デザイン研究室)、小栗真弥助教(デジタルカルチャー研究室)。
「メディア情報専攻では、映像やインタラクティブコンテンツ、ゲームなどディスプレイの中に映るあらゆるものを作ることを学びます。その一方で、研究室によってはハードやシステムを扱うコンピュータシステム専攻のカリキュラムを学ぶこともできる、学生にとっては自由度の高い学部です」(松河)
学生が興味のあるカリキュラムを自主的に選ぶことができる。その柔軟な姿勢で学んできた力が、東京ゲームショウで発揮された。
東京ゲームショウで11作品を展示するという挑戦
本プロジェクトの初期段階では、60名程度の学生を集め、ブレインストーミングを行いアイデアを出し合った。
「ブレストを行って、学生たちに企画書を書いて発表してもらったんです。その中から最終的に、11作品程度の案が決まりました。それらの案の中から、学生たち自身が面白そうだな、このゲームの制作に携わりたいなと感じた作品を選んでもらってチームビルディングを行っています。その工程に1ヶ月かけました。我々は過去の東京ゲームショウでの事例などを紹介しながら、ゲームの専門学校でもない、ゲーム企業でもない愛工大が勝てる方法を考えていったんです」(松河)
「私自身も初めてのゲームショウでした。学生たちに教えたのは、ゲームショウというたくさんのゲームが展示される場で興味を持ってもらうためには、直感的にすぐに分かる面白さという部分にフォーカスしたゲームになっているのか、ということです。巨大なイベントなので、それがプレッシャーになって、技術力や作業量に集中したくなる気持ちはすごくわかるんです。でも、技術力を上げたとしても、わかりやすいゲームの世界観を提示できていなかったりすると、遊んでもらえず自己満足に終わってしまう。だからパッと見て『やりたいな』と思ってもらえて、遊んでみたら『楽しい!』と感じてもらえるような作品を作ること。それが愛工大の特徴だと思います」(小栗)
実際に、SNSで「愛工大の作るゲームが尖っていて面白い」という意見も寄せられたという。
「特に実物の障子を使用した『必殺障子人』は好評でした。アイデアが出た時に、すごく硬い骨格のあるアイデアだと思い、発展させました。さらに臨場感が出るように、スクリーンだけでなく障子自体にもプロジェクションを行うなど、どう面白く見せるかをアドバイスしましたね。他にも『御化屋指揮』は東京ゲームショウという場で映えるゲームで、いつか実現したいと思っていた作品です。VRでお化け屋敷を体験しているプレーヤーを、ヘッドマウントディスプレイを付けていない別のプレーヤーがコントローラーを持って驚かせるという内容で、『VR作品をプレイしている人を眺める面白さ』をゲームに落とし込みました」(松河)
「学生も、学外の方に自分の作品を実際に触ってもらうことで、フィードバックをたくさんもらって、自分たちでは気づくことができなかった気づきを得ることができました。楽しんでもらえて嬉しい思いをしたり、逆に悔しい思いをしたり。そうして得た体験はかけがえのないものとして学生に残るでしょう。来年も愛工大らしさのある、尖ったテイストでTGSに出展したいと思っています」(小栗)
アイデアを形にするためのUnity
水野先生のCGメディア研究室では、インタラクション系のコンテンツやゲームの研究・制作を行っており、企業とコラボレーションの経験も多くある。展覧会やイベントなどで鑑賞者が体験する、参加型の作品を企画・制作・開発しているのだ。
「企業とのプロジェクトで学生たちが学ぶことができるのは、観客にとっては体験する作品を誰が作っているのかは関係ないことなのだから、完成度を製品のようなエンターテインメントのレベルに仕上げなくてはならないということです」(水野)。
これまでの豊富な経験を踏まえた上で学生たちにどのような指導を行ったのだろうか?
「アドバイスしたのは、体験型の作品の魅力の伝え方です。大切なのは、自分の操作によって映像などが反応しているということを体験者が明確に感じられること。レスポンスが良さが面白さに直結するということですね。今回は普段はあまりゲームに使われないデバイスを使う事が多かったんですが、Unityはインターネット上に情報があるので、学生自身で問題を解決できることも多かったです。それでも解決が難しいというところを教員たちが指導しました」(水野)
小栗先生のデジタルカルチャー研究室では、日本の伝統文化に情報技術を組み合わせて、新しいデジタルカルチャーを生み出す試みを行っている。
「今回のTGSに出展した作品では、障子や扇子などをモチーフにした作品でも、家庭にあるようなプロジェクターを使ってゲームを作っています。大きな建物でなくても、小さな規模で、ちょっと特別な体験を演出するようなコンテンツが作れるんですよね。そういった古いものと新しいものを組み合わせるような作品を通して、文化財の中に情報技術を入れていきたいと試みています」(小栗)
今回のTGSでは、学生がユニークなアイデアを出すように率先して指導したという。
「授業ではアイデアを出すというカリキュラムが現在はありません。学生が最初からこじんまりとした作品を考えてしまわないように、カリキュラムを変えていこうという試みを去年から始めました。単なる『演習』だと、教科書通りのものを作るという授業になってしまいますが、もっと学生が自ら考えたものを作るという授業を増やしていけるよう動いています。TGSでも私たち教員が学生たちに積極的に導くことで、マニュアル人間ではなく、考える力を身に付けた人材になってもらえるよう尽力しました」(松河)
愛工大の中でも、メディア情報専攻にはゲームを作りたいという学生が集まる。考える力を身に付けることを目指す学生たちのためにも、Unityが採用された。
「そこで2018年にUnityをカリキュラムに採用しました。Unityが多分一番アイデアを具現化しやすいかなと思っています。ゲームだけでなく、インタラクティブコンテンツも、スマートフォンアプリも、その他にもVR関係もUnityでは作ることが可能です。自分が作ったものを動かしたい、体験したいという思いを叶えることができます。Unityを使うと、リアルタイム性もありますし、CGも綺麗なものが映せますし、プログラムに関してはほぼほぼ無限大の可能性で書きたいものを書けますし。考えついたアイデアを実現化するためにものすごく便利なツールだと思っています」(松河)
「ゲームはいろんな要素が含まれています。プログラミング、ビジュアルのデザインの要素もあれば、ハードウェアを作ることもある。さらにはゲーム的な、面白さをどうデザインするかという話もありますし、実際にゲームを公開する場合は、その運営やゲーム自体の耐久性も必要とされる。それら全てに情報系の要素が含まれているので、今回のTGSで展示した経験を来年にも生かしてほしいですし、別の分野でも生かしてもらいたいなと思っています」(水野)
愛工大ならではのユニークな展示作品
それでは実際に展示された作品たちを紹介しよう。
必殺障子人〜大江戸百鬼夜行〜
実物の障子を使用したゲーム。障子に映るシルエットで、人か人でないものかを判断し、実際の障子を開いたり締めたりしてプレイする。
扇義 陰陽道中
扇子をコントローラーに使ったゲーム。敵の種類によってポリッドスクリーンに扇子を向けて描く形を変え、敵を倒す
御化屋指揮
HMDで体験する人と、脅かす人の2人で遊ぶVRホラーゲーム。脅かす人はVRコントローラの一つを持ち、任意の場所でアクションを発生させる。
Marine Pollution
バイクに跨り、空から降ってくる海洋ゴミをモチーフとした敵を倒すFPSのVRゲーム
Bottle Bullet
ペットボトルをコントローラーにしたゲーム。炭酸飲料を振った際に、中身が飛び出す様子を再現し、液体で的当てを行う。
Treasure Surfing
椅子に座った状態でサーフボードを操作し、連動して動くゲーム内のサーフボードが障害物に当たらないようゴールを目指すVRゲーム
ヘルスランアタック
市販のステッパーをコントローラーに使用。足踏みで移動し、殴る動作でゾンビを打ち倒しゴールを目指す。
雨舞霊楽 〜あんぶれら〜
傘をコントローラーに使用。前方から迫ってくる人を、傘が当たらないように傾けたり、敵には傘をぶつけて攻撃する。
LANTERN
提灯の開閉で灯りのオンオフ、位置・向きで照らす方向を決め、敵に対して、灯りを当てたり、灯りを消して見つからないようにしながらゴールを目指すゲーム。
この先も、愛工大の学生たちの発想力と実現力を見るのが楽しみだ。