大阪府高槻市にある関西大学 高槻キャンパス。豊かな自然に囲まれ、眼下に高槻市街地の広がるこのキャンパスは甲子園球場の約11倍、約45万㎡もの巨大なキャンパスだ。ここには撮影スタジオからコンピュータルーム、クラフト工房などものづくりには申し分ない、充実した施設が揃っており、メディア情報系、社会情報系、コンピューティング系という三つの学問分野が集まっている。このキャンパスでどんなUnityを作った作品が作られているのか、林武文教授、長谷海平准教授にお伺いした。
Unityを導入した理由
以前は今まではOpenGLなどをプログラミングの実習としてやったり、JavaでCGを作ってきたという林先生。Unityを導入した理由を聞いてみた。
「OpenGLもJavaもかなり難しくて、学生も苦戦していまして。もう、そろそろUnityを使ったほうが、楽をして、しかもいいものができるということで導入しました。Unityの良いところは、基本を教えれば、学生が自分で調べてさらに先まで進むことができること。そこは非常に良かったですね」(林先生)
「私はもともと実験映像を作って来たんですが、2016、2017年ぐらいから、360度動画やVRが非常に扱いやすくなったので、そちらもメディアとしてやってみようかなということで始めてみました。それで現在は、Unityで作ったVR動画をSTYLYで公開しているんです。授業では、AR作品を作りました。こんなにいろいろできるのか!と感動してくれて、もう、自分の作品を作り始めているみたいです」(長谷先生)
「新しい技術をどんどん取り入れて、そういう物を作っているっていうのがやっぱり大事なことですから。長谷先生は現役で作品を作って発表しているので、そういう姿勢が学生からも魅力的に映ると思います」(林先生)
Unityを使った研究
Unityを使った研究も行われている。総合情報学研究科の清原裕介君は、RGBでは再現が難しい金箔の反射モデルを忠実にUnityにインポートする試みを行なっている。モチーフは、室町時代から活躍していた絵師、「土佐派」の作品。金箔は見る角度によって見え方が違うので、それをデジタルで再現している。
「反射率は自分では測れないので、測った膨大なデータなんですが、それをダウンロードしてUnityに入れているんです。大きいデータだから動かなくなるところが、Unityにうまく読み込むと、リアルタイムで動くんですよね」(林先生)
「これを作ろうと思ったのは、Web上のデジタルアーカイブで見ると、質感の表現に限りがあるので源氏絵の背景が金なのか黄色なのかもわからない、ということからです。絵の具が使われているのか、金を使っているのかも判別できない。そこで、3DCGを使うアーカイブを考えました。2次元よりも3次元のほうが情報量としては多いので、Unityを選んだんです。Unityのスタンダードのshaderの反射率を、金の反射率に近いものにして反映させています。その方法は、ある方向から反射したものを、どれぐらい反射していて、吸収されているかというのを、分布関数で表したもの(BRDF)の記述、関数を使って、StandardShaderでは表現できない金の反射を、リアルに再現しているんです」(清原)
いずれは、金箔が使われている「金雲」や、金に土が混ざっている素材の「金泥」を再現したいと考えているという。美術作品のデジタルアーカイブに新風が吹くであろう技法だ。
また、林先生が現地のピラミッドで撮影した点群データをUnityで再現し、キャラクターにその中を走らせる研究も行われている。いま各美術館などで美術作品のデジタル・アーカイブが課題とされているが、関西大学のこうした研究がいずれ現場で活躍する日も近そうだ。
新たなる試み
高槻キャンパスには、TV番組を撮影できるほどの撮影スタジオがある。その場所で、Unityを使った取り組みも提案されているそうだ。
「スタジオで映像だけ撮っていても、もう、試みとして新しくない。そこで、UnityでPhotogrammetryを使って物を入れ込んで、VRコンテンツを作ってみようと。また、Unityでアニメーションも作ることができるので、モーションキャプチャで人の動きを撮って、アニメで使うというようにスタジオを使えたらなと考えています。VTuberに限らず、Unityなどのツールによって、これまでの映画やテレビ番組などのコンテンツの作り方と恐らく根本的に形が変わってくると思うので。それが可能な設備があるということで、新しい試みは学生も嬉しいだろうし、大学としても時代に追いついていきたいと思っているんです」(長谷先生)
キャンパス内には学生が自由に使えるデジタル工房もある。