神奈川県・神奈川工科大学/ゲームの「面白さ」をどうデザインするか

神奈川県厚木市に総合キャンパスを構える神奈川工科大学。同大学の学生が作るゲームはクオリティが高く、東京ゲームショウなどでも話題を集め、コンテスト等でも多数の入賞歴を誇る。果たしてどのようにUnity教育を行っているのか、情報学部情報メディア学科特任准教授の中村隆之先生にお話を伺った。

中村隆之先生
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ゲームの「面白さ」をどうデザインするか

「私はもともとメーカーで携帯電話を作っていたんですが、その後ゲーム業界に転職し、15年ほどコンシューマーやアーケードゲームのプログラマ、ディレクター、プロデューサーとして働いていました。その後本学に2012年に着任したんです。ゲーム業界と大学の研究者って、全く違う仕事のようですが、実は本質的にはあまり変わらないんですよ。つまり、結局はデザインなんです。ゲームであれば、プレイヤーをどうやって楽しませればいいのか手段を考えて作ってみる。そして、うまくいかなかったら何度もやり直してみる。授業で、あれば学生にこういうことを学んでほしいと私がカリキュラムをデザインする。プロデューサーでもディレクターでもエンジニアでも、目的のために手段を組み立てるのが仕事です。クリエイターでも教員にも、全てに関して言えることなんですよ」

現場での経験をもとにした中村先生の「学生に考えさせる」教育から、東京ゲームショウなどでの成果につながる”面白い”作品が生まれてくる。

「​​本学では、ゲームの作り方を勉強してゲーム業界に就職したいと考えている学生が多いんです。でも実際に、ゲーム業界に入るのはなかなか簡単なことではありません。そこで大事なのが、『他人と違う視点を持つ』ことなんじゃないかと思うんです。もちろん学生には本格的なゲーム開発の授業を行いますが、他人がやらない『ユニーク』な作品を生み出せなければ他の人と同じになってしまう。エンターテイメントで意識しなければならないのは、まず向こうに体験者がいるということ。その人がどんな体験をしてるのか、どんな表情をしてるのか、そういうことを考えられるようになってほしい。そこで、本学ならではの設備である加工設備を揃えた『KAIT工房』を活用し、学外の人にも実際に遊んでもらうため学生発案の自作アーケードゲームを開発しました。それが青森と北海道がねぶたのリズムで殴り合う『アオモリズム』というゲームです。開発にはUnityを使っています」

『アオモリズム』

『アオモリズム』は東京ゲームショウで行列ができ、Webメディアでも紹介されるヒットを収めた。そうしたユーザー目線から考えるゲーム制作の取り組みを8年程行っているという。その集大成と言えるのが『湯切の頂』だ。ラーメンの湯切りの技を競うゲームで、湯切りかごの中にシリコン製の麺とセンサーを入れ、一気に振り下ろして美味しいラーメンを作るというもの。この作品は東京ゲームショウで大成功を収めたほか、テレビでも紹介された。

「『湯切りの頂』では、プレイヤーが成功したり失敗したりする様子が他の人にも見えます。失敗して派手に麺をこぼすと後ろで並んでる人が笑ってくれたりするんです。この瞬間に、もうこれは成功だと思いました。その様子を見て、面白そうだな、と思った人がまた体験してくれる。お客さんの体験としてすごくいい体験になるんですよね。つまり、プレイしてる人の体験だけでなく、それを見てる人がどういう体験をするのかという視点でも考えなくてはならない。最初のアイデアでは、麺がこぼれない仕様になっていたんです。その時点では面白くなかったんだけど、麺をこぼれやすくして、その様子を他人が見られるようにしたらものすごく面白くなった。そうすると、『もっと楽しい体験を作りたい』と学生のモチベーションも上がるんですよ」

麺が絡まないようにベビーパウダーをまぶしてドライな状態にするなどの工夫をしている

アイデアの1000本ノック

「学生チームには、ゲームのアイデアを1,000個以上考えるという課題を出しています」

と語る中村先生。

「これは EMS Framework という僕が開発した方法とブレインストーミングを組み合わせて行います。実際には学生が1チームでに2,000個ぐらいアイデアを出して、厳選して企画にしたものに対して私が一個ずつフィードバックを出して、学生がまた考えて…という授業をしています。基本的に、アイデアをボツにする数が多ければ多いほど成功に近づくんです。そこで上手く行きそうだ、というところまで練り上げたものを、Unity上でプロトタイプを作ります。ゲームデザインをするにおいては、アイデアの数と、絞り込み、素早いプロトタイプ、評価・改良のサイクルをいかに早く回せるかが勝負ですから。そして、成果物を体験してフィードバックをもらうこと。それに尽きますね」

2000個ものアイデアというと途轍もない量に感じるが、ゲームデザインには欠かせないことなのだという。

「ゲームデザインって特殊なことではなくて、日常でも普通に使える考え方なんですよ。面倒くさかったりやる気が起きないことを、どうやったら楽しくなるかと考えるのと変わらない。だからゲームデザインの考え方を身につければ、どんな課題にぶつかっても同じなんです。目的は何かを、その手段は何かを考えるだけですから。多分どんな新しいことにトライしても応用できる考え方だと思います」

オンラインの可能性

コロナ禍で同学もオンライン授業を2020年から導入している。

「コロナ禍になってからオンライン授業を導入したわけですが、変化した状況の中でどうやって質が高い教育を提供するか、オンラインで授業でも対面を上回るぐらいの教育がうまくできないかということでかなり苦労しました。でも実は、Unityの授業はオンデマンドのほうが劇的に学生の学習効率が上がったんです。それまでは私がリアルタイムに教えてたんですが、そうすると一瞬スクリーンを見逃すともうわからなくなってしまう。それをオンデマンドにしたら、自分のペースで動画を止めたり戻したりとかできるので、劇的に効率が上がりました。そこでオンラインゲームの開発をする教材を教員たちでオンデマンドで作ってみたら、短期でオンラインゲームが開発できる成果を得られました。しかもリアルタイム通信のオンラインゲームなんですよ。オンラインゲーム開発はハードルが高いなと思っていたんですが、学生たちは一度もリアルで会わずにチームを作って見事に成し遂げました」

また学生の作品の発表の場も、オンラインで開催しているという。

「Gather.Townというバーチャルスペースの中で、学生がUnityで作ったオンラインゲームを発表できるようにしました。オンラインなので、見る側も作品をプレイできながら作者と話せるんです。これもかなり上手く行きました。本学の特徴は、教員たちが本学の特色を出そうとするところです。他の大学ではやっていないことをやる。そこは一本筋が通っています。そしてそのその特色をいかに現場の教育に落とし込むかみたいなところが教員の課題ですね」

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