日本ゲーム大賞2020アマチュア部門で、日本一となる大賞を受賞した大阪・ECCコンピュータ専門学校(以下ECCcomp.)。ゲーム、IT、CG、WEBデザイナーなど幅広いクリエイターを輩出し、ゲーム業界への就職率は7割以上を誇る名門校だ。ECCcomp.の教育方法は、コンピュータの専門力の学習だけでなく、社会に出た際に重要な人間力やコミュニケーション能力を育てること。また、国際力も重視し、英語教育もカリキュラムに取り入れている。このECCcomp.のゲーム・クリエイティブカレッジにおいて、どのようなUnity教育が行われているか、同カレッジの吉野広二先生にお話を伺った。
吉野先生のキャリアは、ゲーム会社から始まった。そこでUnityを使っていた経験を活かし、2年前からECCcomp.で教鞭を取っている。
「ECCcomp.には私の他にも何人かUnityの教員がおり、私がプログラムの授業のカリキュラムを作っています。基本的にUnityというのはサクサクとテンポ良く開発できる環境なので、資料を見て覚えていくよりも体で覚える感覚に近いと思っています。授業においてもUnity自身の機能を解説するというよりはゲーム自体をテンポ良く開発していくのを目的としています。まだゲームをどうやって作ったらいいのかわからないという1年生に教える際には、「ゲームはこうやって作るんだよ」、「こういう考えで出来ているんだよ」という成功体験を与えるために、まずはUnityを使って一回ゲームを作ってみるという方法を取っています。ただ作れるだけで仕組みがわからないと実践には結びつかないので、実際のプログラミングの仕組みはまた別の授業で行うんです」
ECCcomp.は4年制。最初にまず成功体験を与えてから、じっくりと仕組みを教えていく。ゲームエンジンの授業には力を入れているという。
「ECCcomp.の特長は、学生はゲームエンジンで知見を広めたり、自分でエンジンを作ったりと深く学習すること。就職活動のためにUnityでゲームを実際に作ることも多いのですが、プログラマ志望の学生だとUnityを使ってゲームエンジンを覚えてから自分でエンジンを作る事が多く、プランナー志望の学生の方がUnityを使ったゲームで就職活動をする傾向にあるんです。なぜなら、プランナーの場合、これまでの就職活動では企画書のみを作っていましたが、昨今は企画書と実際に動くゲームをセットで作る学生が多いんです。その時に、自分で企画したゲームをUnityで作っているんですよ」
まずはゲームエンジンを入り口として使い、汎用的な技術を身に付けて、そこから知識を深めて就職に結びつけていくという。
「ECCcomp.の学生のほとんどが、ゲーム会社に就職するという目標を持っています。そこでプログラマですとただゲームエンジンを使えるというよりも、自分でゲームエンジンを作れるくらいちゃんとゲームエンジンの中身が分かっているということが評価されるんです。社会に出ると、ただ漠然と知識を持っているだけでなく、自ら動いて勉強して、どういうものが最近流行っているのか、どういう技術が次に来るのかということを見極める力が求められます。プランナー志望であっても、レベルデザインなどを行う時に、自分でゲームを作れる方が後のチーム制作にも役立つというか、プログラマの勘所がわかったり、どうすればさらにこのゲームが面白くなるかというのがわかるので、プログラマ志望でなくてもテンポ良く制作を行えるUnityを使ってゲームを作る学生が多いです」
コンテストで認められる作品を生み出せる秘訣
多くのゲームコンテストで華々しい結果を残すECCcomp.だが、その秘訣はなんだろうか。
「ECCcomp.ではチーム制作の授業にかなり力を入れています。そのチーム制作を通して人間力や専門力を学習するんですが、ECCcomp.の特長として少人数チームで行うということがあります。大体4人から6人とか、少ない時は3人のこともあります。そうすると、少ないからこそメンバーがきっちり話し合うことができるし、出来ること、出来ないことを自分たちで確認して、管理できる範囲内でしっかりやることができるんです。実際、日本ゲーム大賞2020アマチュア部門で大賞を取ったチームも3人でチームを組んでいますし、少人数でこそしっかり自分の力を全部生かしきれるのではないかと思います」
そして、賞を取れる学生にはある特徴があるという。
「大きな賞を取る学生は、学校での勉強だけではなく、家でしっかり自学自習ができる学生ですね。そこは私達も気をつけていて、専門的なことを手取り足取り教えるのではなく、ちゃんと自分の頭で考えて勉強できるようにしていくという方向性を取っています。最先端の技術も大切ですが、まずは基礎をしっかり身に付けた上で、自学自習でさらにスキルを磨いてほしい。そこで壁にぶち当たったときは全力でサポートしますし、私達先生を頼ってほしい。Unityの授業においても、基本的な機能は教えますが、最新の機能などはきちんと自分で調べる力がつくような授業をしています。最初は補助輪をつけて、どんどん外していくような形ですね。私のUnityの授業でも、最初はプログラムの構造もすべて解説を付けた詳細なドキュメントをしっかり作って教えているんですが、その際にはUnity公式のチュートリアルの『Ruby’s Adventure』を参考にしました。そうすると、学生がもっと技術的に進んだゲームを作りたい、と思ったときに公式のチュートリアルをサンプルにしてさらに理解を深められますから」
ECCがUAAに加入した理由
ECCcomp.がUAAに加入した理由を教務課の伊澤幸徳氏に話を聞いた。
「言うまでもなくUnityは様々なプラットフォームに対応したゲームエンジンです。ゲーム制作に必要なものがすべて揃っており、世界100万人以上のゲーム開発者が利用しているゲームエンジンです。本校がUnity アカデミックアライアンス(以下、UAA)を導入することに決定した理由は学生にとっても学校にとってもメリットが大きいからです。UAAを導入することで他校との差別化を図ったり、ゲーム開発に興味を持つ学生に訴求しやすくなるなどのメリットがあります」(伊澤氏)
UAA認定校になるためには、
①Unity認定インストラクターがいること
②Unity認定試験を受験するための機会を設けていること
③学校の授業でUnityの教育リソースを利用していること
などの条件がある。
「UAA認定校になることで、これらすべての条件をクリアしている証明となり、学校に対する信頼度が高くなります。本校がUAA認定校になったことでゲーム(2D・3D)開発をはじめ、VR・AR・MRなど、様々な開発の場面でunityを活用、サポートを受けることができるようになります。
学生が在学中にゲーム開発に必要な知識と技術を幅広く身に付けることが可能になりました。
将来のゲーム業界への就職、キャリア構築にも役立ち、今後のキャリアの幅を大きく広げることができると考えられます」(伊澤氏)
受賞した学生に聞く!Unity活用術
各アワードで受賞した学生たちに話を聞いた。プランナー専攻とCG専攻という、プログラマ専攻不在で作られたというのが印象的だ。
まず一作目は、日本ゲーム大賞2020アマチュア部門で佳作を受賞したチーム「雨天決行」。3人チームで制作した、物理シミュレーションを使ったパズルゲームだ。燃えている場所に水を流して火を消すというもの。「プロトタイプを繰り返し作りました。Unityだとすぐにいろいろな挙動を確かめることができるので、面白さの確認がしやすいんです。それに数値の調整が簡単なので、調整したい場所の数値をインスペクタ上でいろいろいじって、これは気持ちいい!と思える感触を確かめて作ることができました。また、プロジェクトに置いていくだけでレベルデザインできるのがすごく楽なのが良かった点です」
二作目はゲームクリエイター甲子園2020で審査員賞を受賞した「ワニキューブ!!」。キューブを転がしてゴールを目指すカジュアルゲームだ。「キューブが回転していく既存のアセットに、長方形での回転などの加工をして作り上げました。苦労したのは、最初はすごく重かったのでいろいろUnityの機能を使って軽くしたところです。Unityは全部ワンボタンでボックスコライダーなども作れるし、スクリプトもプログラムアタッチもドラッグ&ドロップでつけられて、自分が思ったような挙動をすぐ作れるというのが素晴らしいと思います」
三作品目は学内最大級のコンテストECC EXPO2020で企業賞を受賞した「POPO」。敵を撃つことで魂を取って足場にしたり、能力を奪って進むアクションゲーム。
「メンバーの得意なことや好きなゲームジャンルを聞いて、どういう方向性でゲームを作り込むかというヒアリングから始めました。追加ステージや隠し要素、ワープゾーンなど面白さを感じさせることを意識しています。アニメーションタイムラインなどUnityの機能を使った演出にかなり凝りました。実際に見ながら調整できるのでとてもやりやすかったですね。Webデザインも、Unityでレベルデザインをやってみて、ディレクターにOKをもらって実装できるというループができるのがやりやすかったですね。あとタイルマップで地形をザーっとひいたり、後からの調整もとてもしやすかったので、手軽に試せるのが良かったです」
四作品目は日本ゲーム大賞2020アマチュア部門で大賞を受賞した蟹と魔女が登場するパズルアクションゲーム「OVEROIL CRABMEAT」。20ものステージ数があるという。
「3人チームで作りました。自分はCG専攻で、ビジュアル部分を担当したんですが、UnityのHDRPを使ってリッチなグラフィックにしました。学校ではCG専攻でも1年次にプログラムと企画も勉強するので、その技術のおかげですね」
皆、目標はゲーム業界に就職。中にはCEDECなどのイベントに登壇するのが夢という学生も。これからの彼らの活躍が楽しみだ。