東京・女子美術大学 時代を敏感に読み取り、人の心に響く温かなメディア作品を目指して

「女子美」の名で知られる女子美術大学。女性に対して高等教育機関における美術教育への門戸が開かれていなかった明治33(1900)年に設立され、120 年もの長い歴史を持つ。これまで、画壇・デザイン界をはじめ、教育界などあらゆる分野に優れた人材を輩出するとともに、社会で自立できる女性たちを送り出してきた。

今回、杉並キャンパスにあるアート・デザイン表現学科のメディア表現領域にて、アーティストのためのXRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」(Psychic VR Lab社)を使った特別授業が行われた。「STYLY」はUnityを使い、プログラミングの知識がなくてもXRコンテンツを作ることができるツールだ。美術教育において、どのようにUnityが活用されたのかを取材した。

授業では、CGやプログラムなど未経験な1年生と2年生の7名が2つのチームに分かれてスマートフォン、PCで鑑賞できるインタラクティブなXRコンテンツを作った。テーマは「リアルに閉じない作品展示の可能性とは何か?」だ。

目次

次世代の作品展示のあり方を模索

Team :Bubbles 後藤有爽、藤崎桃子、豊田のりか、渡部なお

A班(チーム:Bubbles)は、コロナウイルスの流行による展示会などリアルイベントの減少に対し、次世代の作品展示のあり方を模索した。そこでたどり着いたコンセプトが、「水中都市を舞台に、参加者が自分の作品を流せる作品展示」というもの。現実の空間・重力・環境にとらわれず、空間ごと作品を構成する要素になれる展示を提案。渋谷という場所は、東京で誰もが知っている場所であり、交差点付近は大きく場所が取りやすい。人がいない水中の渋谷という設定は、現実ではありえないシチュエーションとして説得力がある。その渋谷を舞台に、参加者が絵を描ける、リアルタイムで変化する、作品が空間を動く、泳ぐなどの仕掛けが用意されている。

観客が見て、触れて、初めて完成するミュージアム

Team :ミライミュージアム 高橋穂乃佳、飯島佳音、河原有里佳

B班(Team :ミライミュージアム)は、チーム内でブレストを重ね、「文字ではない作品との対話」、「観客が見て、触れて、初めて完成する作品」、「没入できる世界観」というコンセプトで作品制作に進む。そこで生まれたのが「近未来ミュージアム」だ。触りたくなるような

暗い空間を照らす発光オブジェクトをミュージアムの中に置くことで、観客の注意を惹く導線にした。バリエーションある美しい鉱石はblenderでモデリングし、Unityに取り込んだ。鉱石をクリックしたり、扉を探すなどのギミックが仕込まれている美しいミュージアムだ。

プログラミングによって、新しい発想方法が鍛えられる

メディア表現領域教授 季里先生

メディア表現領域教授 季里先生は、今回完成した2作品についてこう語る。

「女子美の学生には、時代を敏感に読み取り、最新のテクノロジーにも果敢にチャレンジし、でもその中に自分の思いや考えを込めて、人の心に響く温かなメディア作品を作ってほしいなと思っています。Team :Bubblesは、SNSで繋がった人たちの作品を展示したいというコンセプトでした。それはコロナ渦でバラバラになった人たちが繋がるためのものでもあったんです。Team :ミライミュージアムは、Blenderで自分たちのイメージを固めていき、Unityに移行する中で、質感が全く変わってしまうという点に苦労していました。それを、表現の方法を変えることでカバーしようと全力でチャレンジしていたことが素晴らしかったと思います」

美術大学の学生が、Unityを学ぶメリットとは何だろうか?

「美術の範囲も時代と共に拡がり、実際に手で描いたり造形するということだけにとどまらなくなっています。今回はアート・デザイン表現学科のメディア表現領域を専攻している学生が参加しました。彼女たちは、スクリーン上で自分が考えた物語や世界観を表現したいと考えているので、Unityを学ぶことでその夢を実現することができます。もう一つのメリットは、そもそも美大生ってハッと思い付いた抽象的なひらめきを、これまでは画力や造形力によって表現してきましたが、プログラミングを学ぶことによって、自分の考えを客観的に見たり数値化することができる。それにより、新しい発想方法が鍛えられるのではないかと思っています。」

また金多賢先生は、Unityの優位性についてこう語る。

「Unityは、他のプログラミングソフトに比べて、制作したいものを直感的に実現できる特徴があります。ですので、ビジュアル・インタフェイスに慣れている美大の学生にとってはとても有効なソフトウェアであると思います。これからの時代、リアルに止まらない、メタバースを新たな表現の場として活用していく。それを学生と一緒に挑戦していきたいと思います。」

金多賢先生

Unityの利点は、美術大学の学生でも入りやすいこと

Psychic VR Lab yosh先生

授業を担当したPsychic VR Labのyosh先生に、今回の授業の狙いを聞いた。

「今回の授業では、STYLYやUnityのテクニカルな内容もレクチャーしましたが、何より重点的に考えたのは、そもそもxRというものがアーティストの表現にどう活用できるのかという観点から考えてもらうことです。そのアイデアをいかに実装に落とし込んでいくかが重要です。つまり思考のプロセスを最も大事にしました。実際に授業をして感じたのは、学生が学んだ一番大きいことは、鑑賞者の体験や行動をまず考えて、その中で作品がどうあるべきか設計して作るというフローを体験したことです。従来はアーティストが表現したいことを中心に環境を作るわけですが、今回は逆だったんです。Unityを使ったリアルタイムレンダリングの世界で表現するとなると、鑑賞者のリアクションを想定して作品を提供するということになります。そうやって、表現者自身が枠組み自体を作ることが新鮮な体験だったのではないかと思います」

Unityの利点として、美術大学の学生でも入りやすい、動くものがすぐに作れるという点がある。

「Unityを使うメリットは、たくさんあるUnityの機能の中から目的に合ったものを少し学ぶことで、すぐに具体的に動くものが作れるということです。STYLYではUnityのアセットであるPlayMakerでのビジュアルプログラミングによって、今までプログラミングの領域に踏み込めなかった学生たちが、ハードル低くプログラミングに参入できるのは大きいですね。また、VRだけでなくiPadやPC、スマホなど、あらゆるデバイスで体験可能なように配信できるので、これまでにリーチできなかった層にも見てもらいやすいものが作れるようになっています」

モチベーションの高いフィードバック

学生からは、Unityを使うことで「アニメーション設定が楽しかった、これからアニメーション制作に取り入れたい」「自分でもゲームを制作してみたいという意欲が高まった」「アナログとデジタルの作業を両方バランスよくできるようなクリエイターになりたい」など、モチベーションの高いフィードバックが寄せられた。今後の女子美術大学の進化が楽しみである。

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