【専門学校生 × Unity】ゲームシステムを見事にビジュアライズした快作!Indie Games Contest 学生選手権の優秀賞『ECHO ESCAPE』制作の裏側

自分の作品を多くの人に見せたい、同じ志を持つ学生クリエイターたちと切磋琢磨したい……そんな学生たちが挑み、競い、成長する場として、株式会社コナミデジタルエンタテインメントが開催している「Indie Games Contest 学生選手権」。Unityも協賛・協力として携わっています。

2023年4月30日に行われた大会で優秀賞を受賞したのが、日本電子専門学校のチーム「Early Reflection」による『ECHO ESCAPE』です。

音を立ててはいけないが、音を立てないとクリアできない……そんなゲームシステムが評価された本作は、コンテストに向けて結成された学生チームが短期間で効率よく制作に挑んでいました。その裏側をお聞きすると、アイデアの出し方から制作進行のコツまで、インディーゲーム制作者にとっても多くの学びがありました。

左から、高さん、長谷川さん、酒井さん

今回はチームを代表して、同校の高梓喬さん(ゲームプログラマー)、長谷川結香さん(ゲームプランナー)、酒井瑠花さん(キャラクターモデラー)にインタビュー。「音×空間把握」をテーマにしたECHO ESCAPEがどのように生まれたかを聞きました。

目次

試行錯誤の末にたどり着いた、音×空間把握の掛け合わせ

──最初に、ECHO ESCAPEはどんなゲームなのかお聞かせください。

長谷川:研究所に幽閉された女の子のキャラクターを操作して脱出を目指す、ステルスアクションゲームです。研究所には女の子を探す捕獲ロボットが巡回しており、捕まらないように暗闇を進んでいきます。

特徴は、音と空間把握を掛け合わせたゲームシステムです。主人公は“音に敏感”という設定で、光の少ない研究所でも音の反響を頼りに周囲を把握することができます。音を立てれば、周囲の視界が開けて先に進める。しかし、ロボットも音を察知して女の子を捕まえに来る……音を立てるリスクとリターンを天秤にかけながら、研究所の脱出に必要なアイテムを探していきます。

警備ロボットを交わしながら、研究所を進んでクリアを目指す。コンテストの審査員からは「ゲームシステムを見事にビジュアライズしているだけでなく、それが物語とマッチして高いレベルのゲームデザインがされているところ」が高く評価された

──概要を聞いただけでドキドキしますね……。開発はどのように進んだのでしょう?

酒井:まず、開発プロジェクトのチームは9人います。CGやモデリングに関わるのが4人、プログラムの担当が4人、プランナーが1人です。Indie Games Contest 学生選手権に出場するために日本電子専門学校で行われた公募で、「音と遊ぶ」「ステルスゲーム」「緊張感」という方向性を示すワードに興味を持った人々が集まり、この9人でチームが結成されました。

その後、何度も集まって、どんなゲームにするかという企画をブレインストーミングしました。最初に考えていたのは王道のステルスゲームで、“モノを投げて進む”、”クローゼットに隠れる”といったアイデアが検討されました。でも、「ちょっと普通すぎない?」「もっと面白くできるよね」とみんなが思っていて。かなり長い間、ホワイトボードの前でみんなで頭を悩ませていましたね。

開発チーム「Early Reflection」のメンバー

:現在のゲームシステムにすぐたどり着いたわけではなく、ボツ案もたくさんありました。「音と遊ぶ」というコンセプトは最初からあったので、特に「音を使ってどんなゲームが生み出せるだろうか」とアイデアを出しあったんです。「アイテムの落下音や効果音をゲームシステムに組み込む」という発想から、ワイングラスを高音で割る動画をヒントに「ロボットには聞こえないほどの高音で何かを破壊する」といったアイデアまで、幅広い案が提示されました。

特に面白かったのは、PCのマイクを使うアイデアです。私はエンジニアなので実際にUnityでマイクの設定をして、「『開け!』と声を出すとドアが開く」「『頑張れ!』と女の子を応援する」など、さまざまな可能性を試してみました。まあ、全部ボツ案になったんですが……(笑)。

長谷川:ありましたね!懐かしい(笑)。こうして色々と考えているうちに、「本来はステルスゲームで音を立ててはいけないが、その制約をいかにゲームに活かすか」という大筋の方向性が見えてきたんです。そして、現在の「音×空間把握」の掛け合わせにたどり着きました。

「足音の反響で周囲が可視化される」というゲームシステムが決まってからは、「耳がよくて音に過敏な少女が、その特性に興味を持った研究所に幽閉される」という物語を、私が設定していきました。

約3ヶ月でゲームを制作。デバッグ環境の構築が大切だった

──本当にさまざまな試行錯誤をされていたんですね。開発にはどれくらいかかりましたか?

酒井:開発期間はチームを結成してからの約3ヶ月間です。かなり短かったので、開発工程にも工夫が必要でしたね。

たとえば、研究所の舞台設定は「密室からの脱出」というコンセプトから考えているのですが、それ以外にも「背景がシンプルな場所を舞台にすることで、CGモデリングを開発する時間的コストの削減」も考慮しています。マップデザインを立体ではなく平面にしたのも同じ理由ですね。

また、ステルスゲームによくある「モノの裏側に隠れる」といった動作も当初は検討していましたが、開発期間を短縮しながらCG全体のクオリティを上げるため、残念ながらボツ案にしました。

──プログラム面や、他のメンバーとの連携といった観点では、どういった工夫をされましたか?

:プログラマーチームでは開発効率を上げるために、タグ、レイヤー、文字などをすべてファイルで分けて管理することを徹底しました。特に制作後期にかけて、開発が円滑に進むようになりました。

また、開発初期にあらかじめデバッグできる環境を用意したこともポイントでしょうか。エンジニア班・CG班の両チームが、自分たちで機能やモデリングを検証できるようにするためです。もしこれがなければ、CG班と数えきれないほどのやり取りが生まれていたと思います。

酒井:CG班は人物、背景、モーション担当などに分かれて作業していたのですが、このデバッグ環境はとても助かりましたね。たとえば、「プレイヤーを弱く見せたい」「逆に敵はどうしようもなく強く見せたい」という要望があったので、通路の幅ギリギリでどこまで敵を大きくしても大丈夫なのか、ラフモデルの段階でプログラマーと相談もしながら調整を進められました。
長谷川:いま思い返せば、学校側から「先生に毎週、進捗を見せてください」と報告を求められていたことも良かったと思っています。決められた日に何かしらのアウトプットを見せなければならないことで、「やらなければ……!」と気持ちに火がつきました。プロジェクトマネジメントや進捗管理もやはり重要だと学びましたね。

それぞれの得意分野がUnityでつながる

──このゲームはUnityで開発されていますね。具体的に役立ったUnityの利点を挙げるなら、何だと思いますか?

酒井:私はこれまでMayaでCGを制作していたのですが、初めて使ったUnityは起動の立ち上がりや動作が速く、作ったモデルをすぐに動かせるので、試行錯誤が捗りました。まさにリアルタイムエンジンの力を感じました。

:エンジニアとしては、モジュール化された機能に沿ってコードを改良しやすいと思っています。新しいメニューやコンポーネントのメッセージをカスタマイズして、調整しやすいのも良かったです。

また、PCのマイクで音声入力するゲームシステムなども、最終的には使わなかったもののすぐにテストして「使えるかどうか」という可能性を試せました。困った時もネット上に情報が多くて自己解決しやすいので、スピード感を持ってさまざまな機能を試すことができますね。

──みなさんがUnityに初めて触れたのはいつでしょうか?

:僕は初めてゲームを自作した時に、最初に触ったプラットフォームがUnityだったんです。それから他のツールも使って開発するようになりましたが、久しぶりに触ると“ホーム感”がすごくて。動作の安定性や豊富な機能なども十分で、使うたびに安心していますね。

酒井:私は真逆で、映像畑出身なので今回が初めてなんです。ただ、普段はMayaなどを使ってレンダリングする工程を踏んでいるので、その時間を短縮してすぐに結果が見える良さをすごく感じましたね。
長谷川:私がUnityを本格的に学びはじめたのは入学してからです。プログラマーがいなくても、独学でもプランナーが試しにプロトタイプを作って見せられる手軽さが良いんですよね。いまはプランナーもUnityを学ぶべきだと思っています。

専門学校でゲーム制作を学ぶことの良さは?

──みなさんがゲーム制作を始めた理由や、日本電子専門学校に入った理由などを教えてください。

長谷川:私は小さな頃から創作が好きで、よくイラストや物語を書いて友達に見せていたんです。誰かに見せて、「いいね」と褒められることが純粋に嬉しかったんですよね。また、
普段からYouTubeのゲーム実況などをよく見ていて、ライブ配信の楽しそうな様子や、ゲームを通じて人それぞれが異なる感情を受け取るところに魅力を感じていました。

「自分もゲームを作りたい」と明確に思い始めたのは、高校時代の頃でした。プランナー志望でゲーム業界に進むことは決めたのですが、その後の進路には悩んでいて。ある時、ガイダンスに来てくれた日本電子専門学校の先生たちが自分の悩みに耳を傾けて、親身に相談に乗ってくれたことが進学の決め手になりました。

:僕は小さな頃からゲームで遊んでいて、遊ぶだけでは足りない、もっと深く知りたいと思ってゲーム開発者の道に進むことを決めました。実際にゲームを自作しはじめたのは高校生の頃で、誰かが作ったゲームで遊ぶのと、自分でゲームを作るのとでは、世界が全く異なることを知りましたね。自分が作ったゲームを遊んでくれる人の笑顔やリアクションを見て、自分が思い描いたものを実現させる満足感にハマってしまいました。

日本電子専門学校に入り、ただ趣味で自作するだけでは起こらないチャンスや舞台に巡りあったり、他分野の方々との連携の機会が生まれたりしました。今回の受賞もそのひとつです。先生方もゲーム業界で活躍されていた方が多く、的確なアドバイスをくれるので、独学の時よりもさらに上のステージで制作ができていて楽しいです。

酒井:私は今回がゲーム制作は初めてで、実は映像業界志望なんです。昔からドラマや映像、アニメなどが好きで、CGがやりたくて入学しています。日本電子専門学校はCGの分野では特に歴史がある学校です。「CGに関しては何でもできるようなジェネラリストになりたい」と思っていた私にとっては、独自の教科書やカリキュラムで、モデリングからリビング、アニメーションまで一括で学べることが魅力的で進学しました。

だからこそ、今回ゲーム制作に携わったことは自分にとって貴重な経験になりました。映像は画面を見るだけですが、ゲームは自分が動けば当然ながら映像も一緒になって動きます。それがとても新鮮で面白かったです。

「週に一回、2時間半ほど」チームで作業する時間が効いた!

──今回のIndie Games Contest 学生選手権に向けた制作を通じて、どんなことを学びましたか?

:ゲーム制作をきっかけに、他の学部にいるCGやプログラミングの学生たちとお互いに初めて関わり、連携しながらひとつのゲームを作り上げることを学べたのが良かったです。

長谷川:そうですね。やはりコミュニケーションの重要性を学びました。学校には他にもコンテストのために結成されたチームがいくつかあったのですが、とりわけ私たちがうまくいったのはきちんと対面で集まる機会が多かったから。週に一回、2時間半ほど同じ空間で作業したことで、チームの足並みが揃ったのだと思っています。

酒井:最初はDiscordでリモートミーティングも試していました。企画段階で2〜3回オンラインで話したのですが、その後の作業は対面で実施するようにしました。というのも、オンラインでは一人ひとりしか喋れず、一斉に喋れる対面よりもかえって効率が悪いと思ったんです。同じ空間で作業をしていれば、気になったらすぐ聞けて、困ってもすぐ解決できますからね。

──最後に、開発者からゲームを遊ぶ人へのメッセージをどうぞ。

:ECHO ESCAPEはCG班がビジュアルにこだわり、ロボットなどの挙動はプログラム班とCG班が一緒に調整し、レベルデザインも企画班と調整するなど、各所でしっかりとコミュニケーションしたからこそ、面白く仕上がっています。このゲームをきっかけに、「ゲームを作りたい」と思う人が生まれれば良いと思っています。

長谷川:このゲームの特徴は、ステルスゲームなのに、見ている周囲の人がものすごく盛り上がることだと思います。世界観はぜんぜんパーティーゲームではないけれど、みんなでワイワイ楽しめる……あちこちのイベントで展示してみて、そう感じましたね。また、ひとりでプレイする際には、音を3Dで作っているので、ぜひヘッドホンをつけて試してほしいと思っています。
酒井:少し難しめの難易度調整になっているので、ぜひ全クリを目指して最後までやってみてください。とはいえ、クリアまでの想定プレイ時間は、ゲームに慣れている人であれば約20分ほど。気軽にダウンロードして遊んでみてください!

(文・石田哲大/写真・木村文平/編集・長谷川賢人)

目次