Yozhik(下村 陽士さん)インタビュー
──優勝おめでとうございます!今のお気持ちをお聞かせください
下平:まだ全然実感がないというか。自分に起こっていることが信じられないです。制作中は「これは本当に面白いのだろうか?」などと悩むことがすごく多くて、形にしたものが皆さんに評価して頂けて本当に嬉しいです。
──この喜びを誰に一番伝えたいですか?
下平:父です。このゲームを作るのに一番協力してくれたのが父なので、まず父に伝えたいですね。制作中に、何度も何度もテストプレイをしてくれたんです。そもそも、Unityを使うきっかけになったのも、父がUnityの体験会に連れて行ってくれたからなんです。そこで「ゲームを作るのにこんなに便利なものがあるんだ」と驚いて。一度は挫折したんですが、新型コロナで休校になったのをきっかけにUnityでゲーム開発をするようになり、すぐにゲーム制作に夢中になりました。
──どうしてゲーム制作を始めようと思ったのですか?
下平:幼稚園の頃からゲームをプレイし続けてきたので、自分にとってゲームはすごく身近な存在でした。たくさんのゲームをプレイしていると、おこがましいかもしれませんが、だんだん自分がやりたいゲームがなくなってくるんです。そこで、自分が遊びたいゲームを作ろう!と思いました。プログラムは小学生の頃にScratchを少し触ったくらいで、中学生でUnityを触ったのが本格的にプログラムを始めたんですよね。それで完成した初めてのゲームが、2020年に応募した「My way.」です。
──初めて作った「My way.」、昨年の「FRAME RUNNER」、そして今年の「ぬめる」と3作目で優勝を勝ち取られましたが、下平さんの中ではどんな変化があったのでしょうか?
下平:「My way.」は本当にUnityを触ったばっかりだったので、Unityでどういう表現ができるかなという実験的な色合いも強かったんです。「FRAME RUNNER」でUnityの動かし方がだんだん分かってきて、『自分はこういう表現がしたいから、それをするにはどうしたらいいのだろう』と考えて実装できるようになりました。「ぬめる」は、そこからさらにゲームの持つ力を他のことに使えないかなと思ったんです。それで”プレイヤーに触感を感じさせる”ことを目指しました。開発していくうちにスキルがあがって、自分のやりたいことも増えていって、自分が表現したいことをどんどんできるようになっていきました。最初はやっぱり表現したいものがあって勉強するという側面の方が強かったんですけど、「FRAME RUNNER」を作り終わった後からいろんな知識を学んでいって、その知識から「あ、こういうこともできるな」というのを思いついて、それを形にしていこうというのが多くなりました。
──下平さんにとって、Unityユースクリエイターカップ(Unity杯)はどんな存在ですか?
下平:一言で言うと、人生の大きな転機です。そもそもUnity杯で賞を取ることは、最初から僕の目標で、前回は準優勝を頂いたので今回も賞を取りたいと思って制作していました。そうやってゲーム制作をしていく中で、同じようにゲーム制作をしているたくさんの仲間を知り合えたのも大きな転機になりました。Unity杯がなかったら、僕の生き方も色々変わっていたと思います。
──審査員の方からは、「何もかも完璧」というコメントがありました。今回の大会にあたって、2つのバージョンを提出して頂いたんですが、最初に提出されたバージョンと最終バージョンではかなり改良が加えられていましたね。
下平:「ぬめる」は、2回、完全に最初から作り直しているんですよ。それぞれのバージョンを比較するとやっぱり色々な所で異なっています。そのバージョンを作っているときに考えていることをゲームに落とし込んでいるのですが、まだまだ成長期だからなのかころころ考えていることが変わっているなあと感じます。それでも全てのバージョンに「何かちょっと薄暗くて霧に包まれてる感じ」みたいなのがあって、ここに僕らしさがじんわり滲み出ている気がします。
──そうだったんですか。バージョンではゲームの進行がゆっくりしたものだったのに対して、最新バージョンでは敵に襲い掛かるアクションなどが入ってテンポアップしていて、俄然面白くなっていたのが凄かったですね。最初のバージョンのゲームでも優勝できるポテンシャルは充分あったと思うんですが、そこにとどまらないで面白くする努力をし続けるというのが開発者としてすごいところだなと思います。
下平:2回めの制作で、プレイヤーから敵を攻められる、そこでプレイヤーと敵との間で駆け引きが生まれるという仕掛けを作れたのは大きかったです。最初のバージョンではプレイヤーから敵への反撃がなく、「逃げ」のアクションがゲームの多くを占めていたのですが、仕掛けを作ったことによって、自機が柔らかくなって狭い場所に隠れて、敵の視線をかいくぐるというドキドキ感も演出できるようになり、「自機が柔らかくなる」というアクションに、さらなる意味を持たせることができました。おっしゃるとおり、緊張感を出してゲームのテンポを上げるということにも一役買うことができたと思います。
──「ぬめる」を作ろうと思ったきっかけは何でしたか?昨年の「FRAME RUNNER」がまさに音と光という、ライブパフォーマンスというかクラブ的なイメージだった作品から、180度変わった世界観になっていますよね。
下平:思いついたきっかけは、実は音楽なんです。制作初期は、日本のロックバンド「ゆらゆら帝国」の「ゆらゆら帝国のしびれ」というアルバムの暗くて退廃的な雰囲気に圧倒されていました。「ぬめる」が決して明るいゲームではないのは、この影響を強く受けているからだと思います。サウンドにもこだわっていて、舞台が水中なので水の中に潜っているような感じを表現して、他にも移動している時はBGMで流れている水の音が大きくなるようにしてリアル感を出す工夫をしています。雰囲気については、昨年の「FRAME RUNNER」ではビビッドな色使いだったので、今回は落ち着いた感触の音と色合いで攻めていこうと考えて作っていたのが伝わってよかったです。
──制作において、参考にされた要素などはありますか?
下平:ゲーム性では「スプラトゥーン」の一人プレイモードを最も参考にしています。ステージの最終チェックポイントを通過したときにそれをプレイヤーに通知することで、ステージの終わりが近いことを知らせるなど、様々な所で物凄く参考にさせて頂いています。他にも、「スーパーマリオワールド」の製作時に「色々なものに目を付けていったらすごく良くなった」というエピソードを参考に、キャラクターに目を付けました。そうしたら一気にキャラクターの表情が豊かになりました。
──ゲーム制作で一番楽しいと思うのはどんな時ですか?
下平:自分が考えた演出がしっかりと機能しているのを見ると楽しくなります。「ぬめる」でいうと主人公の「食べる」アクションを作るのにかなり時間がかかったのですが、しっかりとアニメーションも含めて動作しているのを見ると嬉しさがこみ上げてきました。ゲームを作っていると時折、自分が作ったものが自分の予想を越えた演出をしてくれることがあり、今回でいうと、「ぬめる」が壁にダッシュで体当たりしたときに泡が出てくる演出は、結構小さいことなのに、あるのとないのとではダッシュの重みがかなり異なっていたので、面白いなと思います。また、いろんな人にプレイして感想をもらったり、「面白いね」とか「ここの表現はどうやってやったの?」など意見を頂く時もすごく楽しいです。
──逆に、制作で辛かった部分はどんなところですか?
下平:反省点は多いです。「ぬめる」はこれまで作ったゲームの中で最もボリュームが多いゲームでした。そのため制作過程でスクリプトが非常に読みにくくなってしまい、自分の技術の少なさを痛感しました。また、しっかりと制作の予定を考えていなかったので、最後のイベントが納得いくものにならなかったりと、自分の能力を把握しきれていない所が多かったので、そこは反省しています。
──大会では他の出場者さんと交流はありましたか?
下平:Unity杯がなかったら、やっぱりこういう人と知り合えるのはなかなか難しいと思いますし、こうやってゲームを作っている人が何を考えているのかなとか、すごく気になるんですけど、そういうのを直接聞けるのはすごくいいと思います。特にAnnulusさんはプログラムがすごくて、いつも参考にしている、というか、尊敬しています。他の参加者の方たちとは今までもDiscodeでやり取りをしていたのですが、今回顔を合わせてみて、さらに打ち解けた気がします。今回初対面の方たちとも赤モンドさんを中心にDiscodeグループが結成されているので、今後も何らかの形で交流していきたいです。
──ありがとうございます。それでは、最後に今後の目標を教えてください。
下平:ちょっと笑えて、何かがすごくおかしくて怖いんだけど、妙な説得力があるような作品をいつの日か形にしてみたいです。また、「ぬめる」を作ってみて、自分のプログラム能力がまだまだ未熟であることを感じたので、それはこれからも伸ばしていきます。そしてえ、最近複数人で何かを制作することに憧れを持っています。複数人で開発するための心得はまだもっていないのですが、積極的に挑戦してみたいなと思います。さらには、「ぬめる」をリリースしたいなとも思っています。
──楽しみにしています。ありがとうございました!
『ぬめる』タイトル概要
舞台はざらついた質感のまるで下水道のようなダークな世界。水音だけが不気味に響き渡る。プレイヤーは謎の軟体生物「ぬめる」の身体を硬い状態と柔らかい状態の2つを使い分けることで、細い迷路のような通路を乗り越え、迫りくる敵を避けてゴールを目指す。
チーム:Yozhik(下村 陽士)
2022年度 Unity ユースクリエイターカップ優勝作品