『カラクリショウジョの涙と終』:チーム名[空想探求] – Unityインターハイ2020 受賞作品

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空想探求(合田 晴哉さん)インタビュー

──準優勝おめでとうございます!今回は異例の2作品準優勝受賞ということなんですが、まずは受賞した感想をお聞かせください。

合田:ありがとうございます。僕はゴールドアワードを取りたいなと思って頑張っていたんです。

──そうなんですか?!もう、完全に優勝狙いで来ていると思っていました。

合田:ゴールドアワードを取りたい、少なくともそこまでは行きたい。前回出場させていただいたときにシルバーアワードだったので、一つはランクを上げて頑張ろうと思って。ゴールドアワードを取ったら準優勝もその中から選ばれるということなので一応、可能性はあるのかなとは思っていたんですけど、そこまで高く望んではいなかったというか。…というか取れるとは思っていなかったというのが正直な感想です。

──なるほど。Unityインターハイって総合的に良くできているかどうかが評価されますが、『カラクリショウジョ』はものすごく一点突破型で。その一点の突破の仕方がちょっと凄まじすぎて、これはただのゴールドアワードでは収まらないなというふうに審査員全員で合意したので、『カラクリショウジョ』のために準優勝が二つできたという経緯だったんです。

合田:自分が作りたかったのが本当にその一点突破型だったので、そこが響いたっていうのが聞けてすごく嬉しいです。

──1年間、ゲームではなくアニメの修行をされていたとおっしゃっていましたけど、それはなぜですか?

合田:2018年にシルバーアワードを受賞させていただいた後は、ゲームは作っていたんですけど、単純に今、自分がやっていることに疑問を持ちだして。ゲームはすごくがむしゃらにやっていたんですよ。技術とかもすごく勉強して、これ作りたい、あれ作りたい、あれもやってみたいってなっていたんですけど、ある時期からあまりにも自分の視界が狭まっているような気がしてならなくて。それでふと「このまま突っ切ってもいいんだろうけど、そこで突っ切ったときに、どこかでつまずいた瞬間、大ゴケしそうだな」って自分でちょっと怖くなったんです。

──その判断を自分でできるのがすごいですね。

合田:それがあって、ちょっとハッとしたら周りに面白そうなものがいろいろあるし、どうしよう。確かにUnityインターハイにチャレンジできるチャンスは減るし、ゲーム開発にかけられる時間も減るけど、ちょっと1年、のんびりゆったり何かやってみようかなと思って、作っていたゲームも1回止めて。ちょっと1年、アニメーションとか絵とか、グラフィック面をいじってみようかなと。Unityインターハイの頃は毎日がむしゃらに机に張り付いてみたいな感じだったんですけど、本を読んだり、友達と会話する時間を増やしてみたり、ちょっと楽にしてみようかなと。肩の力を抜きつつ、やるべきことをやりつつという感じでやってみようかなと思って。ちょっと充電期間に近いですかね、それに充てていました。

──充電期間をおいてこんな凄まじい物が出てきたと。2018年の『Lost.com』の人だとは全く気が付きませんでした。でも、言われてみればなんですけど『Lost.com』は手描きのグラフィックで、ちょっと暗いトーンの中ですごく印象的なストーリーが展開されるんですよね。だからちゃんと自分の世界を合田さんが持っていて、それの表現として手描きとかアニメーションがあるんだなっていうのがよくわかります。

合田:そうですね。ストーリーを考えるとき思いついたネタをメモ帳とかにパッと書いたりするんですけど、情景とか、キャラクターがこんな動きをしているなって、すごくボヤっと出てくるんです。少なくともそれはシーンが写真で切り取った動画のワンシーンみたいになっているんですね。そのワンシーンって、フッと何かをきっかけに浮かんできて。なので、もしかしたら自分の深層心理的にはそこに何か共通するものがあるのかもしれないんですけど。自ら意図して、どの作品でも自分はこういう表現を絶対やるんだ!っていうものはなくて。そのフッと出てきて面白そうだなと思ったシーンに適した表現を自分は選んでいる感じなので。でもそうやって、今回も前回も自分の気に入ったストーリーというのを表現したんですけど、それが結果的に世界観として自分の持ち味みたいなものになったのかなと思います。

──物語のラストがどうなるかすごく気になるんですが、合田さんの中ではもうできているんですか?

合田:はい。先にストーリーを全部作り終わって最後の顛末までは組み終わっています。

──全て手描きということですが、制作期間は?

合田:アニメーション自体を描いた期間は確か半年ぐらいです。アナログで作業していた分もあるので400枚は超えていると思います。真夜中に紙と鉛筆で手が真っ黒になるぐらいまでには描きましたね。

──今回の『カラクリショウジョ』に使われている表現って、アドベンチャーゲームの会話表現に使うだけでもすごいインパクトがあるんじゃないかなと思いました。もしかしたらプロに参考にされるかもしれない。あと、あのタイムラインの使い方は本当にすごいと思います。個人制作って特に効率がすごい重要ですよね。だからUnityのいろいろな使い方をしてやりたいことを実現していく。そして実際にこうやって動くものがあるというのが、本当にすごいと思いますね。

──『カラクリショウジョ』の構想はいつから?

合田:去年の秋ぐらいですが、構想自体はもともとありました。でも最初は全然違っていて。もっとスチームパンクに寄っていました。それでキャラも敵もいっぱいいるゴチャっとした感じだったんですけど、もっと不必要な要素を除いて、表現したいものって何だろう、このストーリーが伝えたいことって何だろうって突き詰めていったら、結構シンプルにまとまっていったんです。制作活動自体は2019年の秋頃まで、先ほどの充電期間もあるんですけど、また別のプロジェクトを動かしていたので。11月ぐらいからかな。そうですね、2019年の11月ぐらいから本格的に動いて…みたいな感じですね。

──『カラクリショウジョ』に出てくるのは、すごくカリスマ性のあるキャラクターだなと思うんですけど、そういうキャラクターを生み出すのが好きなんですか?

合田:キャラクターというよりかは、どちらかといえば世界観先行ですね。その世界観の中だったらどういうキャラクターを描写したらカッコいいかな、綺麗かな、切ないかなみたいなのを考えて、後からアイデアがヒョイって出てくる感じなので。だから今回も人類がなくなって荒廃した世界、そこにはアンドロイド的な存在がいる。で、扱うものはすごく人間的な概念。終末とかそういう哲学的な概念を扱うとなったときに、じゃあどんなキャラクターがいたらいいかなって考えて、あの2人がヒョイヒョイっと出てきた感じです。

──それでカラクリ人間にいろいろなタイプがいるのがすごく合理的というか面白い。そういうふうに考えていくとゲーム的にも役割ってちゃんとうまく分解できたりするし。そういう意味ではゲームを考えるのに適切な思考ですね。プロでも先にゲームシステムがあって、そのためにどういう設定だと都合がいいかというのを考えることもありますから。

合田:そうなんですね。

──今回のプロジェクトで一番大変だったことはやっぱりアニメーションを描く工程ですか?

合田:はい。アナログで動きだけ先に描いちゃっているんですよ。だから原画っていえるほどきれいじゃないんですけど、動きの基本みたいなものをアナログで書いています。トレース台とか使って、動きだけ描いて、デジタルで使える線にして、その後に色を塗ってという作業をしているので、アナログと兼用していますね。動きはこれだったら手でペラペラめくるだけで動きが確認できちゃうので。

──気が遠くなりそうです。合田さんがゲーム開発をする上で一番楽しいところはどこですか?

合田:一番楽しいのは最初のストーリーをこねくり回しているときですかね。だんだん組みあがっていく世界の中で、キャラクターデザインをしながらこんなキャラクターがいたらいいんじゃないか、って考えるうちにだんだんキャラクターが動いていったり、シーンが想像できていったりするのがすごく楽しいです。

──その世界観を表現するのはアニメーションでもいいし、小説でもいいんだけれども、ゲームを選んだ理由というのは。

合田:2019年にアニメーションの練習をしていたという時期の4月から9月ぐらいで、短編の自作アニメーションを1本作ったんですね。実際に作ってみたら面白いし、やっぱりアニメっていいなって思えた表現だったんです。じゃあ何か別の物に応用できないかな、って思って。それで最後のUnityインターハイに出すゲーム何にしようかなって考えたときに、組み合わせてみようっていうのが理由の一つなんです。

──その発想がもうすごいですね。

合田:もう一つの理由は今回のストーリーにも関係していて。今回、カラクリっていう存在が主人公、物語の根幹を担っています。カラクリという存在は人の遺伝子と機械を組み合わせたという設定があるんですけど、そうするとカラクリは機械としての面と、考え方はすごく人間らしい一面を持つという存在なんですね。じゃあ機械という部分をゲームのシステムとして補って、プレイヤーがプレイするその意思というものを主人公に置き換えることができたら、それは疑似的にカラクリの中に感情移入がしやすい、その入り口になるんじゃないかなと思って今回ゲームという媒体を選びました。

──そういうことでしたか。

合田:僕は物語の終わりを考える、風呂敷を畳むのがすごく苦手なんです。もう、これもあれもって広げちゃう人なんですよ。終わりを定義するのも苦手なので。凝った終わりにするのも凝ったエンディングを作るのもやったことないし、難しいなと思っていて、じゃあもう、ドストレートに行ってしまおうという。これからはちゃんと畳めるようにしようと思っています。

──では最後に、合田さんにとってUnityインターハイとは何ですか?

合田:やっぱり一つの目標なので、モチベーションの維持という意味でもUnityインターハイの存在はすごく大きかったですね。何か目標にできるものがあるっていうと、とりあえず動くとこまで、自分が胸張って出せるところまで、という強い意志が持てますし。何よりその過程ですごく成長できた自分がいたので、成長の場としてすごくありがたいなと思っています。あと多分、他の皆さんも言ってらっしゃることが多いと思うんですけど、他の参加者さんと関わりを持てたり、輪が広がったりっていうのもすごく嬉しいポイントですね。

──ありがとうございました。次回作も楽しみにしています!

『カラクリショウジョの涙と終』タイトル概要

全て手描きというアニメーションで構成された、ディストピアな世界観に惹き込まれるSFアニメーションRPG。主人公は人の遺伝子と機械が融合し生まれた存在「カラクリ」。カラクリと人類の全面戦争で人類が滅びた世界を舞台にバトルが繰り広げられる。

『カラクリショウジョの涙と終』

チーム:空想探求(合田 晴哉)

2020年度 Unityインターハイ 準優勝作品

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