Yozhik(下平 陽士さん)インタビュー
──準優勝おめでとうございます!2020年の「My way.」が初めて作ったゲームで、翌年に準優勝とはすごい快挙です!
下平:本当にありがたいです。本当に感謝というか、取れてよかったなと思います。受験の合間を縫って作り込んできて大変な思いをしたので、それが報われてまずはよかったです。そして、自分の作りたかったものがちゃんと世の中で認められるものなんだ、と準優勝という形で認められたことで、ちょっと自分の作品に自信が持てました。本当にうれしいです。
──去年の「My way.」は、基本的な機能やグラフィックだけでもこんなに面白いゲームが作れるんだ!という意味で審査員一同衝撃を受けました。しかも、プレイして面白いというだけではなく、ちゃんと最後までプレイすると感動が待ち受けているという、一つのゲームとしてきっちり完結していた。そこが評価されていたわけですが、「FRAME RUNNER」ではUnityの2Dの機能をすさまじく使いこなして、市販のゲームにも負けない、唯一無二のグラフィックになっていると思います。
下平:今回、初めてUniversal Render Pipelineを使いました。あの機能のおかげで、画面がきれいになりました。
──下平さんが「FRAME RUNNER」の構想を始めたのはいつからですか?
下平:元となるゲームは2021年の5月ぐらいから作り始めて、2Dと3Dを行き来するような動きができたのは8月の2週目くらいです。実は、キャラクターが落ちるのは床の当たり判定を貼り忘れたバグから生まれたんですよ。そこから、全然違う場所に落ちたら面白いなと思いつきました。最初は2Dで作っていたゲームに、3Dの部分を作って合わせています。ちなみに、作った敵の総数は20くらいです。
──バグだったんですか。それがゲーム開発の面白いところで、実際のゲーム開発の現場でも起きたバグからアイデアが思いつくことも多いんです。それで生まれた「FRAME RUNNER」ですが、すごく丁寧に作ってあるのが印象的でした。ステージが始まる前に組み合わせを見て「あ、これはやばいな」っていう感触がきっちりあるんです。そして、これは上手いな、と思うのが、同じパターンでスピードが速いバージョンのステージもありますよね。そのドキドキ感だったり、ステージの緩急のつけ方が本当に上手だなと思います。
下平:毎回違うパターンを作ることが面白さに繋がると思っていたので、面白いと思って頂けてよかったです。
──もう一つ特徴的だと思ったのは、サウンドですね。トリップ感があるというか、画面の中にどんどん吸い込まれていくような音と同時に、画面の中で実際に奥へ奥へと進んでいくので、没頭感のあるプレイの感覚があります。
下平:ありがとうございます。僕は音楽を聴きながらゲームを作っているんですが、音楽を聴いた後に自分のゲームをすると、「音がショボいな」って思うんです。それが許せなくて、2Dになった時に音がこもったり、速くなったときに音のテンポが変わったり、そういう細かいところを工夫して、自分なりに満足できるゲームを作っています。
──すごく特徴のある画面作りですが、どういうところから思いついたんですか?
下平:参考にしたのは、風景です。近所にある、高速道路を今造っている場所の下をくぐった時に、圧倒的に大きなものに囲まれているという感覚が身体にすごく残ったんです。そしてワープする画面などは、電車に乗っているときに架線の柱をくぐっていく感覚。そういったものに、大きな影響を受けています。他には、ダフト・パンクを聴いたり、映画「トロン」のPVを見たり、その世界観は刺さりました。
──現代アートでもモチーフにされるものですね。でも誰かの作品に似ているという感じがなくて、本当に下平さんならではのオリジナリティが強いので、本当にすごいと思います。クリエイターにとっては、あらゆるものが創作の糧になるんですよね。
下平:2Dの敵のデザインは、コウモリや火の玉など、ちょっと妖怪っぽいモチーフにしました。スタイリッシュな敵だけじゃなくて、妖怪みたいなちょっと怖いけどかわいいモチーフも出して、色々なものが混ざっている雰囲気を出したかったんです。
──ゲーム自体の色使いや光り方はサイバーな感じなのに、敵が妖怪というのが良いですよね。ゲームの舞台自体は、人間の精神世界なのかな?という印象を受けたのですが、いかがですか?
下平:ストーリーをつけるかどうかは、ものすごく悩みました。ゲーム自体の雰囲気から普通のストーリーにはできないので、夢の中だったり、人間の精神世界の中という形になってしまうので、どこまで掘り下げようかなと悩んだんですが、今回はストーリーにはほとんど触れない形にしています。
──それはすごく正解だと思います。何も言わない分、逆にストーリーが受け手に委ねられているんですよね。だからプレイヤーそれぞれが深く何かに落ちていくという動きを通して色々な解釈をするので、結果的に心の深いところに触れることができるんですよ。
下平:実は、チュートリアルのステージに行く場所で落ちるシーンを試しに無くしてみたんです。そうしたらゲームが一気につまらなくなってしまって。「何で落ちたの?」という衝撃があったからそうした深みが生まれたんだと思います。落ちた瞬間に、その痛みがプレイヤーにも伝わることで、一気に感情移入をさせるポイントを最初に作れたのが良かったですね。いい方向に転がってよかったです。
──実は、そうやって何も言わなくてもプレイヤーに伝わるだろう、と腹を括るってすごく精神力が要る決断なんですよね。ゲームクリエイターに必要な精神力を持っているんだと思います。
下平:ありがとうございます。自分はプログラム自体はすごく好きです。Unityを使い始めたのはそれまでScratchをやっていて、Unityの体験会に行ったのがきっかけでした。それで作った、街を2Dで自動生成するのがすごく楽しくて。もともと絵を描くのは好きだったんですが、プログラム上で自分が描いた絵が動くのも見ていて楽しいです。
──今は、プログラミングの敷居がすごく下がって目的ではなく、目的を達成するツールになってきたんですよね。たまたま、下平さんの持っているセンスがプログラムというツールを通じてゲームになったということで、下平さんは他にもいろいろな道具を使いこなせるクリエイターなんじゃないかと思います。Unityを使ってアートを作っているクリエイターもたくさんいるので、ゲームはもちろんですが、ゲーム以外の作品作りにも挑戦してもらいたいです。
下平:ありがとうございます。当面は、「FRAME RUNNER」をSteamなどいろいろな場所でリリースしてみたいです。他には、今までに作ったことがないので、ストーリーのあるゲームを作ってみたいし……。そして一番大きな夢は、ブラックホールの中に行ってみることです(笑)。
──やっぱり下平さんは発想がユニークですね(笑)。ありがとうございました!
『FRAME RUNNER』タイトル概要
平面世界からの脱却を目指すアクションシューティングゲーム。ダッシュやジャンプといった基本的な操作や、特定条件の時だけ使える高速射撃などを用いて、2Dと3Dの画面を行き来しながら敵を倒していく。次元を越えるフレームを駆け抜けて、疾走感を味わおう。
チーム:Yozhik(下平 陽士)
2021年度 Unity ユースクリエイターカップ 準優勝作品